第30話

ゼロ side



ここはどこ?

今は何月何日?


何時?




拘束具に目隠しの状態で台に寝かせられ、放置されて続けている。



何月何日何時何分かわからないわけではないが、もう考えるのが億劫になってきた。

体感で日付を覚えているのも、楽ではない。

疲れるのだ。



周りでは、無名組織の残党と思われる研究員がバタバタと走ったり話したりしている音が聞こえてくる。



連れて来られる時も目隠しにヘッドフォンをされていた。


しかし車の揺れで大体の場所は把握できる。


そんなにバレたくないなら眠らせるべきだっただろう。




もうここは日本ではないことは確かだ。




いろんな言語が飛び交っている。

イタリア、ドイツ、英語、日本語、アラビア…。




準備ができたのか、シン…と静まり返る。








「No.000、最終確認だ。俺たちに情報を開示、さらに助言しろ」



組織にいた時のように働け、と言いたいらしい。

組織解体を湊は雑にしていた。

そのせいで残党は散り散り。


どこに行ったのやらと思えば、こんなところに固まっていたのか。




「何回でも言うよ。拒否する」


「そうか。ならばその脳をかってに使わせてもらう」




あいも変わらずバカな人たちだ。

十数年前までは頭脳派だった組織が、こんなに落ちぶれるなんて。



失敗した実験を何度もなんども繰り返す。




機械が作動する音がした。

全身に高圧電流が流れる。




私の生と死を繰り返しながら、実験は続いていく。







何日経ったか数えるのはやめた。





今日の実験は終わりだ。

片付けをしているらしい音がする。






「ねぇー?」





呼びかけには誰も答えない。

そりゃそうだ。


彼らは、私がどんな人間か知っているのだから。





「無視するんだ?いいよ、このまま潰されたいなら無視しなよ」


にぃっと口元に笑みを浮かべる。





「……聞くだけなら聞いてやる」



ほらね。

聞いたら動かずにはいられないよね。

特に自分に危機が迫っていると聞いたら、訊かずにはいられないのが人間だ。





「今世間を騒がせてるAI、さ」


「………………」


「思い通りに動かす方法があるって言ったら、食いついてくれる?」


「………そんな方法、あるわけないだろ。

あるならもうすでに対策本部がやってる」


「あららー。なんか卑屈だねぇ。

でも、残念ながらできるんだよ」





見えないが、きっと私を睨んでいるだろうその顔を思い浮かべ、さらに笑みを濃くした。




「その方法、教えてあげるよ」


「……何が目的だ」


「さぁ?なんかさ、やることもないし。この実験退屈なんだよね」




パキン、と音を立てて拘束具が外れた。




ゆっくりと起き上がり、目隠しを取る。






「お、まえっ!どうやって、」


「いいねぇ、その顔。

ねぇ?この提案にのる?のらない? 」





ざわざわと騒ぎ始めた。

今まで何も話しかけて来なかった私の提案。



それも、かなり美味しい話。





「……それを俺たちに教えてどうしたい?」


「君らがAIをどう使うのか、知りたいだけだよ」


「……真っ先にお前を洗脳するのが第一優先だな」


「あははっ!……そんなに怖いんだ?」





空気が凍る。

重くのしかかる重圧。




彼らは乗ってくる。

なぜなら、私をここに連れてきた理由が、AI取得のためなのだから。




こんなに優秀なAIを思うがままに動かせるなら、表社会も裏社会も欲しがる。

奪い合いだ。





こんな話をしたら、"あいつ"は絶対出てくる。




──ガチャリ




ほぉら。

出てきた。

のこのこ餌をくわえにきたバカがね。




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