第20話

ゼロ side




監禁から逃れて1ヶ月。

裏路地でしゃがみこんでいた。



街の状況を整理する。



最近、企業と病院の機能は回復した。

AIがそのツールを復活させたのだ。


しかし依然、交通機関と政府機関等の重要なシステムは機能していない。



AIが今までに殺したのは、

最初の3カ国のトップ、紛争地域のトップ2名。


さらに地図から消された島は5、街は3。


裏組織の蛇も壊滅したと聞いた。




私が務めていた会社も機能を回復させたらしい。

もう少ししたら、戻ろうと思っている。





「こんばんはぁ?子猫ちゃん」





顔を上げると、下品に笑う集団がいた。


確か…こいつらは、"蝿(はえ)"。

柄の悪さは世界一で、戦闘能力も知能も低い。


はぐれ者の集団、といえばピッタリか。

人数ばかりが多く、そのおかげで裏社会に顔が知られている。




「こんばんは」


「お前が記憶媒体No.000、かぁー?」


「記憶媒体?…なんですか、それ」


「あははははっ!しらばっくれてんじゃねぇよ!」




幹部らしき男が私の顔、真横の壁に足を押し付けた。

ガンッ!という音が路地裏に響き渡る。



「俺ら、今カナリアと手ェ組んでんだ。

AIに対抗できるのはお前だけだって言われてな。連れて来いって言われてるから、大人しくついてきてくんね?」


「カナリア?AI?…すみません。

もう少しわかるように教えていただけませんか?」



雲行きが怪しくなってきた。

今夜は雨だろうか。



最近、体調が悪い。

今日も風邪を引いたらしく、頭も体も痛かった。




「お前は大人しくついてくりゃあいいんだよ!」




10人ほどに囲まれた。





にやにやと笑いながら、近づいてくる。






壁に寄りかかりながら、ズルズルと立ち上がった。



この1ヶ月、こんなことばかりだ。

AIに対抗できる策として私を必要するなんて…。





バカだなぁ





私はただの人間で、凡人で。

…そんな人間になりたかった、狂人。




「ごめんなさい。

知らない人にはついて行くなって、張り紙に書いてあるのを見たことがあるので。

ついていけません」





前を見据えて、にっと笑い返す。





私を欲しがっているのは、表社会も"彼ら"も、そしてルナも同じだ。


でも、今捕まるわけにはいかない。





「そういうと思ってたぜ。

俺らは10人で足りるって言ったんだけどな、

お前に瞬殺されるって言われたから仕方なく増やしてやったんだよ」



路地裏に、ぞろぞろと人が集まってくる。


10人いたところに、増えたのは…

足跡からわかるのは23人、か。



「仲間いーっぱい連れて迎えに来てやったんだ。感謝しろよ」


「……私は、電車が動かなくて帰れなくなっただけなんですよ」


「へぇー?

じゃあこの状況で、なんでそんなに冷静なのかを教えてくれるかなぁ?」




あぁ。

せっかく穏便に済ませてあげようとしていたのに。



むやみやたら殺してると、さすがに疲れてくる。




まぁ、もう少しの辛抱だと思って、耐えるしかない。




口元を歪め、にぃっと笑う。

そのまま目を細め、口元に指を当てた。






「あぁ、やっぱりわかっちゃう?」








豹変した私に幹部が動揺する。

ざわざわと全員騒ぎ始めた。




スルリとナイフを袖から滑らせ、唇にに当てる。





「そんなに私がほしい?

…まぁ思うのはかってだけど、邪魔されると腹立つよね」


「………っ!やっぱり猫かぶってたか、女狐!」





全員が臨戦態勢をとる。


それでも誰一人飛びかかってこない。




「あれ?来ないの?…っていうか、猫なの?狐なの?変な人」


「………っ」


「まぁ、いいよ。どうせ勝負にもなってないしね。もう邪魔しないで」




ナイフを袖に戻し、集団に向かって歩き始める。



──ドサッ




次々に蝿が倒れて行く。


ある程度歩いたところで立ち止まり、振り返った。


ビクン、ビクンと痙攣しながら倒れている33人。




そのまま路地を出て繁華街に出る。





あぁ、疲れた。




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