第19話



「それがどうかしましたか?」


「ゼロは何か知っている」


「えー…? なんでだよ?」



幸架と璃久は首を傾げた。


俺は考える。

ゼロは、当てずっぽだったと言っていた。


全員それを信じた。

帰ってきた時、ゼロは眠っていた。

何か知っているわけがない。



ゼロが今回の件に関わっているかどうかはまだわからないが…。

予測の範疇を越しすぎている。

絶対に何か知っていて、俺たちをスクランブル交差点まだ誘導したんだ。



「……少し気を抜きすぎたな」


「湊さん?」


「……湊。俺らはお前とは違うんだ。

悪いが、説明してくれるか?」



真剣な瞳で開理が俺を見た。


お前とは違う、か。



「そうだな。俺とお前らは違う。

でも、"俺ら"とあいつも、違う」



背もたれに頭を預け、天井を仰ぐ。

どうしてゼロは何も言わずに行ってしまうのだろうか。



俺を殺す、と言った瞳を思い出す。

いつものような悪魔の笑みでこちらを見下ろしてきた。



そんな顔をしながら、彼女はいつも泣きそうな顔をする。




自分がそんな顔をしていると、あいつは気づいているのだろうか。




たぶん俺が1番あいつに近い場所にいる。

それなのに、こんなにあいつの考えていることがわからない。







「……No.0。全てはあいつの掌の上だ。

AI?…ははは。

あいつにとってAIなんて眼中にねぇんだよ」


「……それは、悠ちゃんがAIの知能を上回ってるって言いたいのか?」


「AIが何のために動いてるのかはわからない。

どこから流出したのかもわからない。

そもそも影は一機だけなのかどうかさえわからない。


それなのに、あいつは無名組織と関連づけて俺らに話した。


俺らは"影"の映像しか見せてない。

他の情報は持ってなかったからだ。

それなら、なぜゼロはあんなこと言った?」


「……盲点でしたね」


「そう。影が俺らを狙ってると、俺らがそう考えたのは、ゼロがそう言ったからだ。


影の言動から考えれば、俺らが標的だなんて思わない。

目的は、世界の壊滅だと考えていたはずだ」


「………ゼロは全部知ってるっつーわけか?」


幸架と璃久がお互いを見あって頷いた。

それと同時に開理もポツリと呟く。



「…悠ちゃんの捜索が、1番の打開策、か」




全員の意見が一致した。

ゼロを探す。



AIに対抗できるのは、おそらくゼロだけだ。


もう俺に予測できる範囲を超えている。

ゼロは俺に期待していると言ったが、早々に飽きられて殺されるのも時間の問題だろう。



全員出かける準備を始めている。

俺だけが、その場で動けなかった。




この2週間、一言も話さなかったゼロ。

2日前、突然動き出すようになった。



この件にゼロが関わっているのは確かだろう。



それでも…。

いつもと何かが違う気がする。

ぼーっとしていることも多かったし、顔色も良くなかった。


俺でさえ考えればすぐにわかるようなことも、ミスをするようになっていた。




脳裏にエラーを起こして死んでいった記憶媒体たちが浮かぶ。



無理やり感情を奪われて育った彼らは、孤独という感情に耐えられず、破綻して死んでいった。



この感覚は何?

どうして誰もこないの?

どうして、そんな風に笑うの?

幸せって何?楽しいって何?


お腹すいた。

寂しい。

苦しい。


なぜ?自分は記憶媒体。

心など不要の、道具。





そんなエラーで頭が一杯になって、記憶媒体としての機能が果たせなくなった。

食欲もなくなり、ひたすら答えを求めて考え続けた。



彼らの破綻原因は、いつも同じだった。


──誰も自分を愛していない。



そんな彼らの死を、俺だけが看取った。

ゼロも、ついに破綻したのか?



死なせたくない。

生きていてほしい。


でも、俺も死ぬわけにはいかない。

世界がどうなったとしても、まだこの手から溢れていないものだけは守り通したい。



現状は何も把握できていない。

むやみに動いては、自爆するだけだ。


ゼロはどこにいったのだろうか。



今するべきことは、いったい、何なのだろう。

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