第18話



「湊?」


「……目的が復讐ってのが、ひっかかる」


「うーん…。

"影"は、人間にヘドが出るって言ってたからな。

復讐じゃなかったとしても、何かしらの憎悪からの反応だと思うけど?」


「………いや。違う、気がする」


俺は考え込んだ。

この強烈な違和感の正体はなんだ。


「…湊さんがそー言うときは外れないからな」


「それじゃあ、影の目的って何なのでしょうか?」




璃久と幸架も考え出す。

開理もじっと何かを考え込んでいた。

再び沈黙が流れる。



2日前から今までの出来事を全て頭の中で反復する。


直感なしに、論理的に考えれば幸架の言う通りだ。

ヘドが出る、なんて、明らかに人間を嫌っている言葉だ。

AIが人間を憎む?



「そうか。

何がひっかかるのかと思ったら…そういうことか」


俺はやっとその答えに辿り着く。


「何かわかったんですか?」


「AIは人工知能だ。常に最善の道を選んで行動するはず。

それなら、人間に憎悪を持つ、なんて感情を抱くはずがない」


「……そうか!

人工知能に個人的感情はいらないはずだ。


人間に寄り添ったりする感情はプログラムされているかもしれないけど、製作した人間に反するかもしれない感情をプログラムするなんておかしい」


「んー。……ってことは、なんでAIは動いてんだ?

つーか、誰がこんなAI作ったんだ?」


「AIの目的どころか、何もわかりませんね…」




開理は口を開かなかった。

何か知っているのか、それとも考え込んでいるのか。

幸架と璃久は情報を照らし合わせるように話し合っている。


俺はふぅ、と一呼吸ついた。

落ち着けば見えてくるものがあるはずだ。


頭で考えるだけだなく、直感を頼りに記憶を漁っていく。



──だからジュンは俺を越せないんだよ

──なんでゼロはそんなになんでもわかるの?

──俺が人間だからだよ

──どういこと?

──人間ってのは、論理だけでは動かない。人間はな、情で動くんだよ

──情?




にっと笑った幼い顔が脳裏に浮かんだ。

なんだってこんな時にそんなこと…。


……あ。




「……ゼロだ」


「悠ちゃん?」


「ゼロが言ったこと、覚えてるか?」


「湊が悠ちゃん大好きちゅきちゅきってことなら覚えてるけど」


「…………………」




開理がニヨニヨとした顔でこちらをみている。

腹立つ。

こんな時に余計なこと思い出してんじゃねぇよ。なんでそんなのばっか覚えてんだよ。

思わずジト目で開理を睨む。



「そっ、そんな睨むなよ!

じゃあどれだ?」


「なんで今日動きがあるってわかったんだ?って聞いた時に答えたことだ」


「えーっと…。すみません。あんまりは覚えてなくて」




全員覚えている様子はないので、復唱する。





「《無名組織壊滅の時、派手に情報管理室爆破してましたからね。


あのコンピュータに入っていた情報とかが流出するのにかかる時間とか。


逃亡者たちがどこかの組織に助けを求めて、あなたたちに報復する可能性がある、なんて考えれば、そろそろ動きがあるかなぁと。


それに、今日は土曜日。

人通りの多い休日です。


組織壊滅を実行したあなた方がどこにいるかわからない上、あなた方がやったことはまだ知られていないでしょう。


だから、あぶり出すとしたら今日あたり、大々的にやるのかなぁ、なんて適当に考えてたら当たったって感じです》」





全員、あぁ、と思い出したような顔をした。

それと同時に、それがなんだ?と不思議そうに首をかしげる。

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