第16話

湊 side



──コンコン、コンコン


「湊さん?いますか?湊さん?」



ノック音と呼びかけで目がさめる。

起き上がると、傍に彼女はいなかった。




まぁ、そんなことだろうとは思っていたので特に動揺はしない。




ベッドから降り、伸びをした。

体が軽い。



どのくらい眠っていたのだろうか。


ドアを開けると、心配そうにこちらを見る幸架がいた。



「あっ、湊さん。大丈夫ですか?

丸一日出てこなかったので…」


…おい。

まて、丸一日中寝てたのか?


さすがに頭を抱えたくなった。

絶対薬盛られたに違いない。





「……心配かけたな」


「いえいえ!顔色よさそうですね。よかったです」




2人で階下へ降り、リビングに入る。

心配そうな表情の開理と視線が合う。




「あ、湊。大丈夫か?体調悪いんじゃ…」

「睡眠薬盛られたらしい。…体の方は問題ない」

「え。問題ありありじゃねぇか!」

「ついでに報告しとくけど、ゼロが逃げた」

「あぁ、はいは…い⁉︎」



さっきからころころと表情が変わる開理が面白くて、少し笑った。


そんなに驚かなくても、なぁ。




「何か変わったことは?」


「あー、湊さん。変わったことどころか、理解できない状況になってるぜー」


「………?」




全員、顔色はよさそうだ。

疲労していた上、敵がAIだという絶望感で立ち直れなかったが、やはり睡眠は大事だということか。



全員が、自分のやるべきことを考えて行動している。




「まず1つ目。

"影"の標的だった、紛争が起こってた東アジアの地域。

1日でその紛争が沈静化した」



璃久がパソコンをいじりながら説明を始める。

俺はすぐ近くにあるソファに腰を下ろした。


そして、璃久が話し始める前に口を開く。



「仲間撃ちを始めたんだろ」


「え。なんでわかったんですか」


「……戦闘中に突然兵が仲間を撃ち始めた。

あまりに唐突でパニックになったのと、なにを言い聞かせても止まってくれない上、正常だった兵までもが次々に仲間打ちを始めた。


あそこで紛争していたのは5組織。

その全てが仲間打ちを始めるという大混乱になる。

とても紛争している場合ではなくなり、全員撤退。

撤退したはいいが、仲間打ちをしていた兵だけが帰還後に意識障害に陥っていた。


現在、その兵たちはほぼ廃人状態。

今は現状把握とその兵たちになにが起こったのかを調べるので手一杯。

それで沈静化ってところか」



「……湊さん。なんで…」


「敵がAIだからな。やりそうなことは予想がつく」




3人は、信じられないという顔で俺を見る。


できれば当たって欲しくないものが当たってしまったものだ。




「──洗脳だ。」


「洗、脳?」


「……そうか。もしかして、兵たちが使っていた通信機か?」



少し考え込んでいた開理が俺を見てそういう。



「耳に通信機をつけている兵は多いはずだ。

それを使って洗脳したんだろう?

…でも、高出力の電流なんて、通信機じゃ流さないはず…。

何よりも人間の脳はそれに耐えられない。

あんな小さなものから、どうやって…」


「………音、だろ」


「音?」


「そう。人間の脳を錯覚させるような音を使ったんだ。

洗脳されていない兵がいたところを考えると、聞こえていない兵もいたみたいだな。

とすると、モスキート音を利用して洗脳したんじゃないか?」


「あぁ…。もう頭パンクしそうだ…」




項垂れる3人を見ながら、俺も考えを巡らせる。




AIはどこから来たんだ?

ゼロではない。

この2週間、ずっとあの部屋にいたのだ。


いや、抜け出すのは簡単だったかもしれないが、あの様子では影について知っているとは考えにくい。




今のタイミングで逃げたのは気になるが…。

まるで、自分はAIと関係ありませんよ、と言わんばかりのタイミングだ。




あのゼロが、そんな安直な考えで動いてるなんてことは考えられない。

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