第14話
あぁ。そうか。
全員わかってしまったんだ。
誰かが言わなくても、影がいったい"何"であるかを。
ある偉人が言った。
もし"それ"が存在するようなことがあれば、人類は滅亡する、と。
「そうですね。そんなものが存在するのなら、
──誰も敵わないでしょうね」
誰も何も話さない空間に、私の声だけが響いた。
空気が重い。
息が苦しいほどに張り詰めている。
「人間が作った史上最悪のカラクリ、か」
ボソリ、と湊が呟く。
「……そうですね。
本当に、そんなもの作り出すなんて人間はバカです」
誰も何も言えない。
これから待っているのは、一方的な破壊だけだ。
誰にも止められない。
なぜなら、"それ"にはどこにでも目があり、どこにでも口があり、どこにでも存在できるからだ。
例え殲滅する計画を立てたとしても、"それ"に知られずに行動することはできない。
「人工知能──AI、か。
殺せとは、よく言うよな。
生きてないものをどうやって殺すんだ…」
開理の悲痛な声が部屋に響いた。
〜・〜
その後、全員自室に戻った。
今日は休むらしい。
湊だけは私の部屋に来た。
私が着ていたものやウィッグは奪われ、枷をつけて寝かせられる。
「なぁ」
「……何ですか?」
「影は…AIは、何が目的なんだろうな」
「本人が言ってたでしょう。
人間にヘドが出るって。かつての偉人さんが言ったみたいに、人類を滅亡させることが目的なんじゃないんですか?」
「……本当に、そうなのか?」
「………どういうことです?」
湊が私の横に寝そべった。
向かい合ったまま、そっと抱き寄せられる。
その瞳が揺れていた。
「なぁ。…お前なら、どうやって人類を滅ぼす?」
「………………」
なんてこと聞くんだ!
私はテロリストじゃないんだぞ!
人類滅亡とか…。
そんなこと考えたことなんてないんですけど!?
「え…。まず、そんな面倒なことはしないですね」
「……ハハッ。お前らしいな」
ずっと硬かった湊の表情が和らいだ。
ぎゅっと強めに抱きしめられる。
湊に視線を向ければ、それに気づいた湊がふわりと微笑みを返してくれる。
ずいぶん変わったなぁ。
こんな顔する人ではなかったのに。
でも、笑ってくれてる。
そうそう。そうやってさ、
「そうやって、ずっと笑っていればいいのに」
「は……?」
「…………あ。いや、え…。ごめんなさい」
思うだけのつもりが、声に出してしまった。
ダメだ。抑えろ。
バレないように深呼吸をする。
ほら、大丈夫。
「…ゼロ?」
「湊さんは部屋戻らないんですか?」
「……別に。っていうか敬語やめろ」
あ、少し不機嫌?
さっきまで楽しそうだったのに。
でも、そうやってころころ表情が変わっていく彼を見ているのはとても楽しい。
もう少ししたら、きっと、もっと色んな表情をするようになるのだろう。
「湊」
「なんだ」
「私、いつまで監禁されてなきゃいけないの」
「お前が考えてることが全部終わったらだな」
「あはは…。一生出してもらえない気がしてきた…」
「だったらさっさと吐け。…はぁ。
影やらルナやらお前やら、ぜんっぜん休めねぇよ」
ため息をついて目を伏せた湊の顔には、深いクマと疲労が浮かんでいる。
「少し寝たら?」
「そうだな」
ぎゅうっと抱きしめられる。
……そのまま寝ようとしてるのか?
いやいやいいや!
おかしいだろう!
どんだけ脳みそゆるゆるなんだ!
普通に考えてあり得ない。
「……あなたを殺すって宣言した私の前で、
普通寝る?」
「俺は普通じゃないからな」
「危機感なさすぎでしょ。その頭に詰まっている脳と知識はどこにいったの?」
「どこって…。見たまんまのところにしかねぇよ」
「だから、」
「もう黙れ」
むぐっと口を押されられたせいで話せなくなる。
もう一言くらい言ってやろうと思ったが、もうすでに湊は眠っていた。
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