I lock a key.

第13話

ゼロ side



「…起きたか」



ここは…。

二階の部屋?



ベッドの上に寝かされている。

私の傍には、男が腰掛けてこちらを見下ろしている。




「あ…えっと…?」


「お前が気絶してからまだ20分程度だ」


「そ、っか」




男の手がスッと伸びてくる。

私の額から頰に手を滑らせ、じっと見つめられた。




「……大丈夫か?」


「…………フフッ」


「………なんだよ」


「なんでもない」




私を心配するなんて。

以前の湊なら、こんな風に気遣いなどしなかっただろう。



やっと自分の人生を歩みだしたらしい。



「…具合は?」


「もう大丈夫」


「誤魔化すな。こんな顔色悪いやつが大丈夫なわけねぇだろ」


「大丈夫だよ。そんな貧弱じゃないのは君が1番よく知ってるはずでしょう?」


「……今度は倒れる前に言え」


「はいはい」




ギシッとベッドが軋む。

立ち上がった湊は私を抱き上げて階下へむかった。



一階のリビングにつくと、ソファに私を寝かせ、近くにあった毛布を私の上にかける。

ついでなのかなんなのか、湊は自分の膝に私の頭を乗せた。




……え。

膝枕ですか。


恥ずかしいよさすがに!この歳で!



思わず顔を覆う。

初々しい高校生カップルでもないのに、こんなこと…。

というか、彼と私は付き合っていなかった。


さらに言えば、それ以前に友人でもないし、知り合い?でもない。


……まぁ、人間としては色々と踏み外しているよね、うん。




「あ、湊さん。悠は大丈夫ですか?」


「あぁ。…まだ顔色悪りぃからとりあえずここに寝せとく」


「その方がいいですね。

あ…。その、影の正体がわかりましたよ」



パソコンを操作していた幸架は立ち上がり、私たちの向かいのソファーに腰掛けた。



それと同時に、玄関の開閉音がした。




開いた扉からリビングに入ってきたのは、璃久と開理だ。



「あー、空きビル見てきたぜー。

本人どころかカメラもなんもなかったけどな」



ぐったりとした表情で、璃久は幸架の隣に座った。



「あ、悠ちゃん。大丈夫?

レントゲンとかかってに撮らせてもらっちゃったけど…

特に異常はなかったから、疲労かな?」


「あ…。ありがとうございます。

もう大丈夫ですよ」


「無理しないようにね」




レントゲン、撮ったのか。

ということは、さっきまでそれを見てたってことかな。

正直、"それは困る"。



開理は、近くにあった椅子に腰掛け、足を組んだ。

疲れているのか、眉間に指を当てている。



「璃久さん、開理さん、お疲れ様です。

…影の正体がわかりましたよ」


「本当か⁉︎」


「はい」



璃久は幸架に迫るように問いかけた。

幸架は苦笑いしている。


開理も真剣な瞳で幸架を見つめる。



湊は…


スイッと視線を向けてみると、少し憂鬱そうにぼうっとしている。



全員疲れているようだ。



「国際犯罪対策本部も、さっきやっと正体がわかったようです。

ですが…。わかったところでどうにかできる問題ではなさそうですね」


「でも、正体がわかったのなら探しようもあるだろう?

何がそんなに問題なんだ?」



「開理さん。影は、存在していますが存在していないんですよ」


「………どういうことかな?」




リビングの空気が重々しくなる。

幸架はなかなか答えを口にしない。


そのまま沈黙が続く。




「……ゼロ」




ずっと口を閉ざしていた湊が私に話しかけてきた。

視線を湊に向ければ、真っ直ぐにこちらを見つめる瞳と目が合う。




「お前は、どう思う?」


「どう思う、って?」


「相手は実体がない。でも存在している。

弱点という弱点もこれもいってない。

おそらく影は、お前の予測も全て読んで圧倒できるほどの知能がある。

……そんな相手を、どう思う?」




彼は、影が何かを知っている。

その上で、私に聞いているのか。




全員の瞳が私に向く。




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