第9話



「…ゼロ。お前…何か知ってるな?」



湊が私を見下ろす。

他の3人の視線も私に集中した。



「……うーん。詳しくはわかんないです。

今日何かあるのは知ってたけど、それだけですから」



少し考え込んだ後に、そう答えた。



「悠ちゃんは、なんで今日動きがあるってわかったんだ?」



口元に手を当てて考え込む開理が尋ねてくる。

その仕草が湊と同じで、少し笑える。


やっぱり親子だなぁ。



「うーん…なんでって言われましても。

無名組織壊滅の時、派手に情報管理室爆破してましたからね。

あのコンピュータに入っていた情報とかが流出するのにかかる時間とか。

逃亡者たちがどこかの組織に助けを求めて、あなたたちに報復する可能性がある、なんて考えれば、そろそろ動きがあるかなぁと。


それに、今日は土曜日。

人通りの多い休日です。

組織壊滅を実行したあなた方がどこにいるかわからない上、あなた方がやったことはまだ知られていないでしょう。


だから、あぶり出すとしたら今日あたり、大々的にやるのかなぁ、なんて適当に考えてたら当たったって感じです」


「つまり、当てずっぽだった、つーわけ?」

「はい」

「マジか…」



3人はガックリとうなだれている。

湊だけは私を見つめ続ける。


抱きしめる腕がほんの少し強くなる。




「はぁ……」

「ちょっ!何してっ!」



ため息と同時に、湊は私の首に顔を埋めた。

三人が見ている前なので、私は抵抗した。

流石に恥ずかしい。

そのままいくつか華を散らされる。

ほんと、人前で何やってんねん。



「何してるんですか」

「見りゃわかんだろ」

「私が言いたいのは、なぜ今そんなことするのか、ということです」

「そういう気分だった」


「「「「いや、どんな気分だよ」」」」




思わず湊を除く4人で声が合う。

人前で女にベッタリするなんて…

それも、湊にとってもはや家族同然のこの3人の前で。



「……私の羞恥心が耐えられないのでやめてください」

「無理」

「いいえ。

あなたはいい大人ですからできますよ。

TPOは大事です」

「…TPO、ねぇ」

「はい。Tmeで時間、Placeで場所、Occationで場合、TPOですよ。

あなたもそれくらい考えて行動しているでしょう?」

「さぁ?…まぁ、考えなくもないな」

「そうでしょう?マナーですから」

「Temptation、Pastime、OpportunityでTPOは考えて行動したりはするけど?」

「……あなた、最低ですね」

「そりゃどーも」


最低すぎる。

人間として本当にどうなんだ。

クズか?クズなのか?



「…なー、俺だけついていけねーんだけど。

どういう意味だ?」



私と開理、幸架は思わず頭を抱えた。

璃久だけは頭の上にハテナマークを浮かべている。


なので、懇切丁寧に説明をしてあげることにする。



「あぁ…。往焚さん。

Temptationは誘惑、Pastimeは気晴らし、Opportunityは好機、ですよ」

「えーっと?動くのに必要か?それ」

「……誘惑して近づき、日頃の鬱憤を晴らすように相手を陥れたうえで頃合いを見計らって行動に移す、ということですよ。…湊さんの場合は。」

「……うわぁ」



さすがのアイラブ湊さんの璃久もドン引きなようだ。ウゲェという顔をしている。


湊にとっての行動に移す、とはまぁ、色々あるだろう。

例えば殺しだったり、情報を抜き取ったり、相手の心の隙を見て漬け込んだり…。


どうせ湊のことだ。

老若男女関係なく簡単に手玉に取るんだろうな。


うわぁー、ゾワってする。




「…余計離れたくなりました。離してください」

「無理」

「その拒否を拒否します」

「うるせぇよ」




湊が私の口を手で多い、首筋に噛み付いた。




「い"っ…」




皮膚が裂ける音がする。

これは…また傷が増えたのか…。




「お、おいっ!湊!何やってるんだ!」



焦った開理が止めに入るが、噛み付いたまま湊が開理を睨んだ。

開理は怯んでその場で固まる。



重い空気が漂った。

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