第10話




「……湊さん」




静かに呼びかけると、彼の唇は私の首からそっと離される



「………なんだ」

「あなたが私のことを、

大好きちゅきちゅきうぇーい、な人なのは知っていますが、ここまでされるとドン引きですよ。

周りをみてください。

みなさん、生温かい目であなたを見ていますよ」


「「ブフッ」」

「あははははははっ!ヒィー、あー、腹痛ぇよ、あはははっ!

湊さんが、大好きちゅきちゅきとか…

あははははははははっ!」


「……おい。璃久」

「あははははっ!湊さんっ、無理っス!

もう、ツボっ、あはははははっ!」



湊は軽く舌打ちをし、ソファの肘掛に肘をおいて頬杖をついた。

それでももう片方の腕は私から離さない。

私はそこで自分の言葉を自分でツッコむことにした。



「……あの、湊さん。

私はツッコミが欲しかったんですが…」

「なんのだよ」

「お前のことなんて好きじゃねぇよ、的な」


「「「ブハッ」」」

「お前…。はぁ…」




笑いの止まらない3人と、なぜか項垂れる湊。


私は何か可笑しなことを言ったのだろうか?

いや、私は間違っていない。


だって、私は場を和ませようと冗談を言っただけだ。


まぁ、場は和んでよかったけれど…

なんか…思ってたのと違う。



「悠ちゃん、最高だわ〜」

「なんでそんなに頭いいのにこんなことわからないんですかねぇ」

「ウケるっ!あははははははっ!

湊さん拗ねてるっ!あはははははははっ!」


「……お前ら、うっせぇよ」




まぁ、みんな笑っているし、いっか。と私は開き直ることにした。

ツッコミをもらえなかったことはいまだに少し悲しいけれど。

湊は機嫌悪そうだ。



上を見上げて湊か顔を覗き込む。

それに気づいた湊は私に顔を向けた。



「…なんだよ」



不機嫌そうに眉を潜めているのに、そっと私の髪を撫でた。


チグハグなその行為の意味はわからないけれど、大きくて温かい手が気持ちよくてそのまま撫でてもらった。



「フッ…。お前、猫みたいだな」

「猫?」




湊の瞳が細められる。

眉間によっていた皺はなくなり、口元が少し緩んでいる。


……え?

もしかして、笑ってる、の?


「…え。…………は?」


湊が困惑した声を出している。

私はそれに首を傾げた。

秋信も往焚も、開理も慌て始める。




「えっ、悠⁉︎」

「え。なんで⁉︎」

「湊!女の子泣かせちゃダメだろ!」

「なんもしてねぇよ」




泣いてる?私が?

びっくりしてそっと指で自分の目元を拭って見ると、その指先が濡れた。


どうして私は泣いているのだろうか。




ちらりと湊に視線を寄せると、困ったような顔をしていた。


優しく抱きしめられる。



「……どうした?」



その声が優しくて。

温かくて。


いつまでたっても、瞳から溢れる涙は止まってくれなかった。




なんでもないよ。

なんでもないの。


ねぇ、どうして笑ったの?

その瞳には何が映っているの?

今、幸せ?


だったら、あなたがずっと笑っていられるこの時間が、永遠になればいい。



ポンポンと頭を撫でられる。

湊の指先が、私の涙を掬う。


抱きしめてくれている腕は、力強くて。





つい、このままこの腕に縋ってしまいたくなった。

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