第7話


影がケタケタ笑っている画面から複数人の足音が聞こえてきた。

影を名乗る男は、そっちに顔を向けた。



『国際犯罪対策組織だ!

無駄な抵抗をせず、付いてきてもらおう!』



どうやら、映像の窓から見える景色の解析が終わって駆けつけてきたらしい。


人騒がせな男だな。

こんな初歩的なミスを…。


世界の信号を赤に変えるとか、そんな大それたことができるのに、なぜそんなミスをしたのだろうか。



……いや、違う。

わざとだ。これは…意図的に窓を映した…?



《嫌だなぁ〜、抵抗なんてしないよ〜。

──だって、俺に触れる人はいないからね》



クスクスと画面の男──影は笑う。

心底楽しくてたまらないというように笑う。



『中川さん、こちら特攻隊。標的、いません!

カメラと椅子はあるのですが…

次の行動の指示を!』


《あははっ!通信機の声さ、今世界に流されてるって気づいてないの?

間抜けだなぁ。作戦、俺にモロバレだよ?》



『中川さん?聞こえてますか?中川さん?』




画面は影を追って動く。

影は確かに画面に映っているのに、特攻隊には見えていないようだった。


影は、特攻隊の指揮をとっているらしい男に近づいて歩いていく。


真隣にいるのに、やはり指揮をとっている男には気づいている様子はない。

周りにいる隊員達も全く気づいていないのだ。




《さてさて。

俺の正体はすぐわかるだろうから、今は伏せておくね?

まずは15時の事故を回避する方法を探さなきゃだよ。

頑張って、みなさん?

またねー!バイバイ》



プツリとと画面が黒くなる。

CMもニュースも流れない。


もう街はパニックだ。


信号は戻った。

まるで何もなかったかのような風景。




「……急いで帰るぞ」

「え…は、はい!」




呑気に呆然となんてしていられない。

帰って、映像から取れるだけの情報をとらなければ。



どうして影と名乗った?

駆けつけた隊員達に見えていないのはなぜだ。

あの格好をしていたってことは、俺が陰であったことを知っている人物。



1人しか浮かばない。

でも、どうやったんだ?



窓の風景を見てわかった。


あれは北海道だろう。

窓から思いっきり看板出ていた。


さらに隊員達がきている服に札幌という文字が入っていた。



ゼロは、ここにいる。

あの家にはパソコンはない。

秋信は常に持ち歩いている。


開理は自分で研究を進めるスタイルで、パソコンを使わずにすることが多い。

直筆なら、パソコンをハッキングして抜き取られる心配もないから、と言っていた。




頭の中には、"ありえない"ということでいっぱいだった。


無名組織の生き残りか?

それともルナや蜘蛛、蛇が動き出した?


それとも、全く違うマフィアや組織が絡んでいるのか?




ようやくついた家の玄関のドアを乱雑に開け、俺は二階に向かう。

3人は一階であの映像を見返してもらっている。



鍵を開け、部屋に入る。

ベッドにズカズカと進むと、家を出た時と変わらない体勢でゼロは横になっていた。


家を出た時よりも顔色が悪くなっているように感じる。




「……おい」



肩を強く掴み、揺すって無理やり起こす。

ぅ…と小さく呻き、ゼロは起きた。



「お前、何した」

「……何、って…なに?」



ゼロは寝ぼけているのか、意識がはっきりしていない。


こいつは惚けるなんてことはしない。

惚けるくらいなら、確実にバレないように隠す。



ゼロの髪を手早くまとめ、手近にあった黒いウィッグをかぶせる。

そのまま黒のカラコンをぶちこみ、ゼロが悶絶している間に化粧を済ませた。



え?何?なんで?と混乱している間に、さらに服を着せる。


黒いパーカーとズボンしかないので、仕込みがないことを確認してからそれを着せた。



「え、…っと、何?」

「……とりあえず下に行く」




ゼロを横抱きに抱き上げ、そのまま全員がいる一階の部屋に向かった。



ひさびさに抱き上げたゼロは、あまりにも軽かった。





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