第5話



──コンコン



「湊さん、大丈夫ですか?

手、ちゃんと開理さんに手当てしてもらってくださいよ?」

「湊さーん。……あれ?寝てんのか?」



俺は自室のドアをガチャリと開けると、3人が立っていた。

璃久、幸架、開理。開理はは少し気まずそうだ。



「……10分後出る。準備しとけ」

「あれ?どこに?」

「……特に決めてない。スクランブル交差点に行く」

「スクランブル交差点?」




2人は互いを見合って首を傾げる。

ずっと一緒に育ってきただけあって、やはり兄弟のようだ。



「…開理も、行くぞ」



もう一度部屋に入り、ウィッグを被って化粧をする。

服も、いつもの黒ではなく私服にした。


今日は特に必要にはならなそうだが、必要最低限の装備を身につけた。



──コンコン



「湊さん、準備できましたよ」



別に、俺がここのリーダーというわけではない。それなのに、2人は俺を慕っている。



「…もうすぐ行く。

そんなに固くならなくていいから、肩の力抜いておけ」

「「了解」」



もう準備は終わっていた。

でも、もう一つしたいことがある。



部屋を出て二階に行き、ドアを開ける。

ベッドでぐったりと横たわっているゼロに近づく。



眠っている、のか?


ほんの少し顔色が悪いようだ。

額に汗が滲んでいる。

それを指で拭ってやった。



枷を全て付け直す。

一度外されてるし、ほとんど効果はないだろうが…。


そっと頭を撫でた。

光を返して輝く癖毛の真っ白な髪は、まるで絹のように滑らかだった。



「……行ってくる」



そう言って部屋を出て鍵をかけてから、階下へと向かった。



〜・〜



「あー、湊さん。開理さん、こんな感じでいーっスかね?」



チラリと開理に視線を移す。

まぁ本人とはわからないくらい"一般人感"が出てるし、いいだろう。


コクリと頷き、玄関に向かった。

3人は俺についてくる。




そのまま、近場のスクランブル交差点を目指して歩いて行った。






「あれ、…湊、その手は?」



包帯が新しくなっていることに気づいたらしい開理が話しかけてくる。



「あ、本当ですね」

「湊さんって包帯巻くのもうまいよなー。

羨ましいわ」

「…………」



包帯が巻かれた手をほんの少し撫でた。


ほんと、こんなのは不毛だ。

考え直したほうがいいとわかっていてもどうしようもない。



「湊。傷の経過みたいし、後でちゃんと見せろよ?」

「………気が向けばな」





そう話している間に目的のスクランブル交差点についた。

特に変わった様子はなく、土曜のせいか通行人は多い。


ここは店も多く、デパートには大きなパネルに広告が映っている。

今は、流行りらしい俳優が出ているシャンプーのCMをしている。




「湊さん。特に変わったところは…ないみたいですが…」

「まー、人多いけど休日ならこんくらいふつーだろ」

「そうだな。特に組織の連中がいる感じもない」



幸架、璃久、開理はあたりをキョロキョロと見渡していた。

俺も怪しまれないよう視線だけを動かす。

どこでもいいからスクランブル交差点にいるといい、なんてゼロが言うから来たのだ。


これから何か起こる。絶対に。



「…このまま待機」

「「了解」」

「わかった」



4人で意味もない話をして怪しまれないようカモフラージュする。

その間も周りへの注意は怠らない。



それから30分後。




世界が混沌へと変わる前触れが始まった。

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