第3話

湊 side



ドアを閉め、そのまま寄りかかる。

よく死にたがるあの女を監禁して2週間。

あいつは一言も口を開かなくなった。


以前は憎まれ口をよく叩く女だったが、今は何を考えているのかさえ読めない。


はぁ、と深くため息をつく。


2週間前に女に刺された手は、なかなか治らなかった。

跡が残らないように処置はしているが、なかなか血が止まらない。



何か塗ってたか。

まぁ、あいつなら当たり前か。



「湊さん!そろそろですよ!」



階下から声がかかる。

もう一度だけため息をつき、声の方へ向かった。



「あっ、湊さん。LUNAーーールナの動向なのですが…」



パソコンをいじりながら俺に声をかける秋信(あきの)。


本名は斎藤幸架(さいとうさちか)。


本当はこれが地毛だという赤毛の髪に、ほんの少し茶色味のある黒い瞳。

その瞳は少しタレ目で、その面立ちは真面目、という言葉が似合うだろう。





「あー、疲れた…。昨日ルナと密売してた奴らの偵察、終わったぞー」

「あ、往焚(ゆきや)さん!お疲れ様です」





茶髪の短髪に、左耳に3つ付けられたピアス。

髪と同じくらい明るい瞳。

今時の若者、といった感じだろうか。


本名は相澤璃久(あいざわりく)。


今日は疲れているのか、今日は目元にクマがある。



「3人とも怪我はないかい?」

「開理(かいり)さん。お疲れ様です」



白衣を着た男が歩いてくる。

その手にはコーヒー3つと紅茶1つのカップが乗ったお盆を持っている。


フルネームは籬開理(まがきかいり)。

俺の父親だ。


漆黒の髪と瞳、左目尻には泣きぼくろがあり、人の良さそうなタレ目のおっとりした風貌。


ぶかぶか目の白衣のせいで体格は隠れているが、相当鍛えてるのはわかる。



「璃久さんが腕に少し傷を…」

「おまっ!そんなとこ見つけなくていーんだけどー…」


うんざりという表情で璃久が顔を顰める。

それをみて開理は苦笑した。


「璃久君はいつも逃げようとするんだから…。

ほら、手当てするよ」

「このくらいで…。別にやんなくていーのに」




ブツブツと文句を言いながら璃久はついていった。

開理は人体の研究者だ。


かなり優秀らしく、裏社会の籬開理といえば大体のやつらは知っている。


10年前に死亡を偽造したせいで表を堂々と歩くことはできないため、今はここで研究や俺たちの治療をしてくれている。



「あ、湊ー。お前も手、見せろ」

「自分でやるからいい」

「そう言わずに、ほらほら」



伸ばされた手をパシリとはたき落とし、自室に入って扉を閉めた。


「開理さん、別に湊さんはあなたが嫌いなわけではないですから」

「あぁ…。まぁ、いきなり会いに行って父親って言われてもって感じだろうしな」

「まー、俺らの年齢は親に反発するやつ多いから。ハンコーキってやつ」



ドア越しからそんな声がした。

そんなんじゃねぇよ。


ズルズルとしゃがみこむ。


何かが狂ってしまいそうだった。

それが何かはわからない。


ただ、無性に苦しくてたまらない。



「何してんの?」



予期せぬ声に思わず目を見開く。

バッと顔を上げると、不敵に笑う女──ゼロ。


どうやって出てきた?

あの部屋から出たらサイレンが鳴るはず。


ゼロは黒のパーカーを羽織っているだけの姿だ。


その口元はゆるりと笑みを作っている。



「……どうやって出た」

「普通に?」

「枷は?ここにはどうやって入った?」

「だから、普通にだよ」



女は俺の手首を掴み、俺を立ち上がらせる。



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