Kill me.

第2話



ジャラリ、と手足首と首に付けられた枷が鳴る。


よほど私が怖いのか、服は脱がされ、鎖はベッドから出れないようかなり短くされた。

さらにこの建物には、この部屋も、それ以外の部屋も全てに監視カメラが付けられてある。


こんなことをしても意味がないなんて、彼らは知っているはずだ。



2週間前、男を殺そうとして失敗した。

私は、ナイフで刺しても離してくれない男の手を振りほどこうとしたが、解けず…。


そんな、離せ、離さないの応酬をしている間に彼──湊の仲間が2人──幸架と璃久が到着。


か弱い乙女1人に対して、3人って…。

卑怯だ…。



ドアに背を向け、手をそっと伸ばす。

ジャラリ、無機質な音がした。


──ガチャリ



この部屋に出入りするのは、1人だけだ。

だから、顔を上げて確認するのは3日目にやめた。


「よぉ」


ベッドの脇に、ポケットに手を突っ込んで佇む湊。

かつてはジュン、鬼逸、と呼ばれていた彼は今、湊と呼ばれている。彼は、無表情に私を見下ろす。


私は視線を一瞬向け、すぐに晒(そら)した。


ギシッとベッドが鳴る。

私の傍に腰掛けたらしい。


男に背を向けて横になっている私には、その表情は見えない。


「……なんか、ほしいものは?」

「……………」


彼は私の髪をそっと撫でた。

優しく、まるで触れれば砕けてしまうものを触るように。


またギシッとベッドが鳴る。

私に覆いかぶさり、首に顔を寄せられる。


──ガリッ



2週間前以降、湊は私を抱かなくなった。


そのかわり執拗に"跡"をつけたがる。


今日もほんの少し治りかけていたところやまだ綺麗な肌に歯を立てられ、さらに紅を散らされた。



「……いつまで黙ってんだ」

「…………」



肩を掴まれ、仰向きにさせられる。

天井と、苦しそうな湊の表情が視界に映る。


漆黒の髪と瞳。赤い唇。

美しい精悍な顔立ちに、色白の肌。

華奢に見えるが、しっかり筋肉がつけられている湊の体。


その右手が私の頰に触れた。


「なんか、言えよっ…」

「………………」


湊は私に覆いかぶさり、きつく抱きしめる。

視界に映るものが天井だけになる。


ゆっくりと瞳を閉じた。



しばらくして、湊は部屋から出て行った。

ベッドの傍にある机には、彼が置いていった私の食事がある。



泣かないで。

笑ってよ。

大丈夫、これから変わっていくから。



そう言えたら、どんなによかったのだろうか。


思わず苦笑が漏れる。

誰に頼まれたわけでもないこんなことをしているのは、私の意思だ。


そんなふうに思ってしまうなんて、バカだなぁ。


あの人が最後に笑ったのは、いつだっただろうか。



でももし"これ"が終われば、きっとあの人は笑ってくれる。


私はその顔を見ることはできないけれど…。

それでも、君が笑ってくれるなら。



瞼を開く。

ゆっくりと起き上がった。


──パキッ


枷が外れる。



私を捉えておきたいなら、殺さなきゃダメだよ。


私は悪魔。

心なき殺人兵器。


そう、私に心は不要。

情は思考を鈍らせる。


鍵をかけるんだ。

終わった後に感じればいい。

今は何もいらない。必要ない。

苦しみも、喜びも、悲しみも、寂しさも。


──幸せも


よし、大丈夫。私ならできる。



さぁ、次の手へ行こう。

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