女々しくて 女々しくて 女々しくて 辛いよ~おお、懐かしい歌、歌ってんな~
うたた寝
第1話
「女々しくて! 女々しくて! 女々しくて! 辛いよ~♪」
「おお、ずいぶん懐かしい歌を爆音で歌っているな。どうしたんだ? 急に」
「僕は今失恋して傷心中の身なんだ。放っておいてくれ」
「放っておいてほしいならもうちょっと音量下げてほしいのだが」
「ぐぬ……」
「まぁだがグダグダ人の失恋の話なんか聞いても面白くないのでお望み通り放っておこう」
「女々しくて!!」
「露骨にボリューム上げてきたが俺は負けんぞ。さらばだ」
「びぃぃぃえええんっっっ!!」
「げぇー。いい歳こいた大人がガチ泣き始めやがった……。見るに堪えんな。何だよもう。聞くよもう。めんどくさいなもう」
「うぇぇぇんっ! 露骨に面倒くさそうな顔してるぅぅぅっ!!」
「お前の恋が実ろうが実るまいが俺には微塵たりとて興味ないからな。そんな愚痴を聞いているくらいなら『異性関係において友情は成立するか』という不毛な会話を繰り広げていた方がまだ楽しい」
「冷たいなっ! もうっ! ちなみに僕は成立しない派だぁっ!!」
「ははん。さては『友達としか見れない』って言われて振られたな?」
「……そこまで行ってない……」
「あん?」
「『好きです』って告白のメッセージ送った後、返信無いの……。ぐずっ……」
「おおう……、それはまた……、ずいぶんドライな対応されたな……。ああ、でも、ほら。回答に迷っているだけって可能性も」
「好きな人から『好きです』ってチャット着て返信に困る?」
「……まだメッセージ見れてないって可能性も」
「一週間も?」
「…………お手上げ」
「びぃぃぃえええんっっっ!!」
「ああ、うるさい。ほんとうるさい。うるさいけどまぁ泣きたい気持ちは分かったから我慢しよう」
「いや、分かってた。分かってたさ、僕だって。脈無いんだろうな、ってことくらい」
「じゃあいいじゃんか」
「冷たいなっ! 何だ! 『じゃあいいじゃんか』って! 失恋した相手を慰めるシーンで聞いたこともない暴言だぞっ!」
「脈無しと分かっている相手に告白した勇気は称えるが、脈無しって分かってたんだから振られて気にすることも無いだろう」
「ええいこのデジタル人間めっ! 脈無いって思っていようが振られるとキツイんだいっ!」
「振られてキツイってことはそうは言いつつ脈無しって完全には思ってなかったんじゃ」
「ええいっ! うるさいうるさいうるさい!! 何だキミはっ! 別に本心から慰めてくれなんていう贅沢は言わんが、慰めるポーズくらいできないものかいっ!」
「いやほら、自分に嘘吐きたくないっていうか?」
「TPOをわきまえろ! 本音と建前ってものが大人の世界にはあるんだいっ!」
「あんだよー。じゃあ何て言えばいいんだよー。振られた相手のこと腐せばいいのか?」
「シチュエーションにもよりきりだが、今回の場合だとNGだっ」
「めんどくせー」
「キミ絶対モテないだろうっ!」
「振られたやつに言われたくないな」
「びぃぃぃえええんっっっ!!」
「ああ、悪かった悪かった。今のは流石に悪かった」
「ひぐっ……。ひぐひぐ……っ!」
「ああ、ほら、テレビでも見て落ち着こうぜ」
「びぃぃぃえええんっっっ!!」
「何だ何だ何だっ? 今度ばかりは何もしてないぞっ!?」
「振られた相手の出身地の話をテレビでやっているぅーっ!」
「…………だから?」
「出身地から連想して振られた相手思い出してキツイんだいバカめっ!」
「えー、めんどくさいなー」
「また言ったな! それNGワードだからなっ!」
「はいはい。チャンネル変えればいいんだろ?」
「びぃぃぃえええんっっっ!!」
「あんだよ今度はぁっ!?」
「振られた相手と同じ苗字の人がテレビに映っているぅーっ!」
「……まさか苗字からも連想して思い出すとか言わねーよな? 流石にこの苗字を避けて生きていくの難しいぞ」
「難しかろうが面倒くさかろうが、失恋中で傷心中の僕に寄り添って励ましてやろうって気は無いのかいっ!! ここで発揮しなくてなーにが優しさだいっ!!」
「ああ、分かった」
「ん?」
「もう飽きるまで一緒に『女々しくて』歌おうぜ」
「そう来なくちゃ!」
女々しくて 女々しくて 女々しくて 辛いよ~おお、懐かしい歌、歌ってんな~ うたた寝 @utatanenap
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