第11話
待機していた我々のもとに軍服を着て目出し帽を被ったテロリストが続々と教室に入ってきた。
「ミカエル王子はいるか」
日本語堪能ですね。
ミカエル君は留学している設定だから当たり前だけれどテロリストが日本語ペラペラなのは少し驚く。
そうだ、製作者はアホだった。
「そこの金髪、前に出ろ」とテロリストは言った。
「コイツは頑張ってブリーチしたものの生徒指導の先生に呼び出され、明日ヅラみたいに髪を黒くする予定のヤンキーだ。名を佐橋君という」悟くんは苦しい言い訳をした。
「いや、顔知ってるし」とテロリストは顔写真を掲げて言った。
「ふむ」と悟くんは腕を組んで言った。「佐橋ミカエル君、呼んでいるぞ」
悟くん、もう喋るな!
「すまないな。君に恨みはない。一緒に来てくれたらそれでクラスメイトは皆笑顔で家に帰れる」とテロリストはミカエル君に言った。「ちなみにこの様子は隣国に向けてリアルタイムで放送している」
そう話しているテロリストの後ろでスマホを構えた別のテロリストがいた。
「騒がなければ命の保障はする」
「写真を持っているという事はそもそも顔は知らなかった、と」悟くんは言った。「貴様ら、さては傭兵だな」
「それがどうした? 武器を持参で日本に来られるわけがなかろう」
「つまり貴様らは日本人だ。何故なら日本語がペラペラだからっ」と名探偵の孫のような口調でドヤりながら悟くんは言った。
日本語がペラペラなのは製作者がアホだからだよー
「お前、さっきからうるさいな」テロリストは銃口を悟くんへむける。
「やめてくれ! 皆に危害は加えないでくれ。そうしたら僕はそちらに行く」とミカエル君は言った。
やっぱりスパダリは違うなあ、と感心していると何やら背後でロッカーを開ける音がした。
「動くな」と悟くんは散弾銃を構えて言った。
「おいおい、この数を相手にそれか」とテロリストは馬鹿にして笑った。
「勘違いするな、俺が『動くな』と言ったのは貴様だ」
そう言って悟くんはミカエル君に銃口を向けた。ほぼゼロ距離だ、ミカエル君のお腹に付くくらい。
「何故だ? 僕は大人しく投降する、だから」
とミカエル君が悟くんの方へ向き直り、言ったと同時だった。
「ボゥ」という発射音がした。
ミカエル君は倒れ、腹を押さえた。そして血染めのハンカチを落とした。
アレ?
教室内がパニックになる。凶弾に倒れたミカエル君を心配してエリアナも駆け寄った。
「人質がいなければここにいる理由はない」と悟くんはテロリストに言った。「今なら逃げ切れると思うぞ。ちなみに我々日本人では人質としての価値はなかろう。隣国の王室への交渉材料としてのミカエルだからな」
多少穴のある交渉だったがテロリストには効いたようだった。
「引き上げるぞ」という合図と共にテロリスト達は教室から、そして学園から出て行った。
そしてその後をパトカーやら特殊部隊やらの車が追っていった。生放送していたらそりゃ通報されるよね。
「このひとでなし!」と悟くんへの罵詈雑言が口々に始まる。勿論その中心はユダ子だ。
「ネダバラシしないの?」と私は横目で悟くんに訊いた。
「それくらい、自分で出来るだろう」悟くんはメガネをクイっと上げつつミカエル君を見て言った。
「痛たた。流石に衝撃はすごいね」とミカエル君は起き上がって言った。そして制服の下から辞書くらいの厚さのエロ本を出した。
「やっぱりそれか」そしてあの血染めのハンカチには私の鼻血がたんまり付いている。だいぶチープな仕掛けだ。
「流石に分厚いエロ本でも貫通する恐れがある。ミカエル」悟くんはミカエル君からエロ本を譲り受ける。
エロ本の中身をくり抜いて出来た空洞には鉄板でできた箱があり、さらにその中にピストルが入っていた。
「ピストルは無傷だ。もし、ミカエルの死体を確認されそうになったらミカエルに使ってもらう予定だった」
「テロリストを逆に人質にしろと言われたけれど、流石にそれは無理だよ」とミカエル君は謙遜した。
「終了〜、だぜ!」と海賊ウサギは宣言した。「勝者は悟とミカエルだぜ。二人の連携だからな」
まさかこのルートでトゥルーエンドが見られるとは思わなかった。
ネットでは「トゥルーエンドの無いクソゲー」と揶揄されていたからだ。
「良い物を見せてもらったぜ。ご褒美は選択形式ではなく、事前に訊いた望みのルートを辿ってもらうぜ」と海賊ウサギは言った。
「神様からのご加護だ」
神様からのご加護? 事前に訊いた望みのルート?
なんだろう。聞いていない。となると訊かれたのは私ではなく悟くんの方か。
「僕の望みは皆と平和に卒業することだよ」とミカエル君は言って女性陣から黄色い声援をうけていた。「じゃあね、二人とも! 僕らは卒業式までのルートを辿るよ」
そう言ってミカエル君とクラスメイト達は教室を出て行った。
「行っちゃった」と私は手を振りつつ呟いた。「アンタ、何かリクエストしたの?」
「最終、第五ステージだぜ!」と海賊ウサギは叫んだ。「頑張れよ」
海賊ウサギは何故かしんみりとした様子だった。
逆に悟くんは緊張まじりの真剣な顔つきになる。初めてみる表情だった。
今まではどこか鼻歌混じりの態度だったからだ。
「ここからは取引で得た俺の能力は使えない」そこで悟くんはスマホ画面を私に見せた。「ナノハちゃんに誓え。『私は強くなる』と」
悟くんの能力? 確かに他人の心を読んだような行動が多かったけれど。
そして『私は強くなる』?
どういう意味?
という疑問を残しつつ最終第五ステージが始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます