プロローグ④

 圭吾は自分を社会の底辺にいる存在だと認識している。

 低学歴、低収入、非正規、負け組。

 侮辱される要素はいくつも抱えている。

 事実であるから、反論できないとも思っていた。

 親の支援があって、後押しがあって、金があったなら、自分の人生は全然違っていたはずだ。

 ろくでもない家に生まれて。

 苦しみ続けて。

 怯え続けて。

 耐え続けて。

 今度は罰を負わされる。 

 ろくでもない家で生まれ育ったことに対する罰だ。

 圭吾は自分の境遇を、賽の河原の石積みの話に重ねて考えることがある。

 親より先に死んだ子供が、河原のほとりで石積みをさせられ、積んだ石を獄卒の鬼が崩す。子供はまた石を積み上げる、それが果てしなく繰り返される。

 何もしていないのに一方的に罰を負わされ、延々と終わらない。

 この話を子供の頃に学校の図書室の本で読んだとき、無性に怖かった。

 口裂け女やババサレのような都市伝説や怖い話には、なにかしら逃れる方法というのがある。

 けれど、賽の河原野石積みにはそんなものはない。

 子供の側からはどうしようも出来ない。

 ただ不条理だけがある。それをとても怖く感じた。

 それと同じことだ。

 あんな家、あんな親の下に生まれたせいで、他人が抱えていない不利を背負って生きていかなければならない。

 やりどころのない怒りを覚えることもある。

 もうどうでもいいとやけになることもあった。

 だけれど……

 圭吾は思う。

 自分の人生はまだ何も決まってはいない、と。 

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