【織田信長・長宗我部元親】元親、一計を案じる

「土佐国と阿波国のみの領有を認めるから配下になれ」――それは長宗我部元親のもとに届いた織田信長からの書状だった。普段であれば、このような露骨な脅しには決して屈しないだろう。しかし、今回の相手は織田信長。その上、空を飛ぶ安土城という得体の知れない力を有しているのだ。決して、容易に決断できる状況ではなかった。



「信長が攻めてきたら、どうなるか……」



 織田の軍勢が海を楽々と飛び越え、土佐の地に現れる様を想像すると、冷や汗が背中を流れる。だが、焦りを抑え、冷静に考え始める。



「空を飛ぶ城……その速度は軍勢ほど速くないはずだ」



 そう考え始めた元親の脳裏に、ある計略が浮かんだ。信長の優位を無力化できるかもしれない作戦。彼の目は鋭く光り、そのまま家臣を呼び集めた。



「皆、よく聞くがよい。我々は信長を迎え撃つ。作戦はこうだ――」


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 一方、信長は淡々としていた。長宗我部元親が従わないことはある程度予想していたのだ。



「やはり、長宗我部はあくまでも抵抗するつもりか」



 信長は手元の書状をくしゃくしゃと丸め、側にいた家臣に渡す。



「こちらには安土城がある。空を飛べるのだから、いくら海があろうと問題ない。長宗我部は判断を誤ったな」



 言葉とともに信長は、軍勢の準備を整えさせる指示を出した。家臣たちは彼の言葉に忠実に従い、早速動き始めた。



「殿、もうすぐ淡路に到着いたします」



 信長の傍にいた若い武士が恭しく報告する。信長は軽く頷き、静かに家臣を下がらせた。長宗我部元親のもとに到着するまでにはまだ少し時間がある。戦場に赴く前の束の間の休息――信長は床に腰を下ろし、一息ついた。



「さて、少し休むか……」



 信長は瞼を閉じ、深い眠りに落ちた。


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「殿! 一大事でございます!」



 信長の夢が急に途切れた。目を開けると、焦燥の色を浮かべた家臣が駆け込んできた。



「どうした、もう着いたのか? いや、違うな……外が騒がしい。何事だ」



 信長は上半身を起こし、すぐに状況を尋ねた。家臣は息を切らしながら答える。



「長宗我部軍が弓矢で攻めてきております!」



「弓矢? それはありえない。この城は浮いているんだぞ」



「現在、山の間を浮遊しておりまして、山の頂上と安土城の高さが同じになっております!」



「そうか、これが奴の作戦か。確かに四国は山が多い。そして、それを利用しているわけだな。だが、ゲリラ攻撃など俺には通じぬ」



 信長はすぐに対策を講じた。家臣を集め、指示を与える。



「これからは山の間を通る前に、山頂に向けて火をつけた矢を射て、ゲリラが隠れる場所をなくせ!」



 その命令が下るや否や、安土城の周囲にいる兵たちはすぐに準備に取り掛かった。火のついた矢が次々と山頂へ向けて放たれ、山に潜んでいた長宗我部の兵たちは逃げ惑うしかなかった。


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「殿、ゲリラ兵たちが次々と壊滅しております!」



 長宗我部元親の本陣に報告が届く。彼はその言葉を聞き、しばらく沈黙した。冷静な表情を保っていたものの、内心では焦りが募っていた。いくら織田信長の軍勢が疲弊しているとはいえ、正面からぶつかれば、勝つ見込みは限りなく低い。戦が長引けば、民にも大きな負担になる。



「民を守るために……いや、これ以上の犠牲は避けたい」



 元親はそう心の中で決意を固めた。そして、信長に降伏する旨の書状を自らしたためた。


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「長宗我部は賢いな。損害を最小限に抑えるために降伏するとは。いや、賢くはないか。一度、俺を敵に回しているのだから」



 信長は笑いながらそう呟いた。彼のもとには別の報せが届いていた。柴田勝家が伊達を討ったという報告だ。これで織田政権に抵抗する勢力はさらに減った。残るは中国の毛利と九州の大友、そして島津――だが、島津は数に入れる必要がないかもしれない。彼らにはすでに選択の余地がなく、降伏するほかないのだから。

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