【織田信長・上杉謙信】甲斐の虎と越後の龍

 豊臣秀吉が小田原の北条氏を滅ぼした、という報せが尾張の織田信長のもとにも届いた。小田原城という堅固な要塞を、最低限の損害で落としたという報告に、信長は大いに満足していた。秀吉は信長の意図を汲んだのだ。



 信長は、尾張の統治を丹羽長秀に任せると、ごく限られた部下数名を連れて密かに安土城へと戻ることにした。


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「秀吉、素晴らしい働きだった。俺の意図を組んで、小田原城を最低限の攻撃で落としたのも含めて、見事だ。誰かとは違うな」



 信長はふと、血を流し、無念の表情で畳に伏していた光秀の姿を思い出した。



「誰かとは?」



「気にするな。すでにこの世にはいない人物だ」



 信長の言葉で、秀吉はすぐにその人物が誰であるかを察した様子だった。わざわざその名を口に出すこともせず、「そうでしょう」とばかりに首を縦に振る。



「さて、ここからは再び俺が指揮を執る」



「次はどこを攻めるのでしょうか?」



 信長はわざとその問いをかわすように、にやりと笑ってこう告げた。



「それはお前にも秘密だ」


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「殿、武田が裏切ったという情報を入手しました! これが、その証です」


 

 その頃、上杉謙信は、部下から差し出された書状を手に取り、黙々と目を通していた。書状には、武田信玄が上杉を裏切り、織田信長に寝返ったという内容が記されていた。謙信はその一文をじっと見つめ、眉間に皺を寄せた。



「私、武田信玄は上杉を裏切り、織田信長様に仕えます」



 謙信は一笑に付した。



「まさか、これが織田信長の作戦か? あまりにも見え透いている。おそらく、武田のもとにも似たような書状が届いているに違いない」



 謙信は手に持った書状を破り捨て、足元に落とすと、無造作にそれを踏みつけた。



「空飛ぶ安土城があっても、それを活かさなければ意味がない。間違いなく信長は攻めてくる。安土城が着陸した時に迎撃できるように、兵を集めろ!」


謙信の命令が下ると、彼の部下たちはすぐさま動き出した。戦の準備は着々と進んでいった。


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 その一方で、信長は秀吉と共に安土城の内部で、次の一手について議論していた。



「殿、これで良かったのでしょうか? あまりにも分かりやすく、さすがに武田たちも看破するかと」



 秀吉は信長が用意した偽の書状に対し、懸念を示した。だが信長は、その顔に不敵な笑みを浮かべたまま、首を横に振った。



「秀吉、これでいいんだ。油断させる書状を手に取れば、間違いなく二人は兵を集める。それこそが絶好の機会だ」



「武田・上杉の精鋭をどう相手されるのでしょうか?」



 秀吉がさらに問いかけると、信長は少し顎を上げ、遠くを見つめながら低く笑った。



「奴らは間違いなく、安土城が着陸するタイミングを狙ってくる。その思惑、砕いて見せよう」



 そう言いながら、信長は杯を口に運び、酒を一口含んだ。





 夜が更け、安土城は灯りを消しながら西に向かっていた。信長は、自らの考えを実行に移そうとしていた。彼の策はこうだった。武田と上杉は、安土城が着陸する瞬間を狙ってくると予想していたが、信長はその期待を裏切ることにしたのだ。



「殿、第一陣の準備が整いました!」



 部下が報告すると、信長はすぐさま命令を下した。



「よし、足軽および忍びたちをロープを使って安土から降ろせ!」



 安土城が着陸する必要などない。彼の計画では、軽装の部隊をまず空から降下させ、敵軍を撹乱し、その後に弓や鉄砲を持った部隊で敵を殲滅する手はずだった。安土城の空中からの攻撃は、上空から絶え間なく続く。そして、信長が想定した通り、武田信玄と上杉謙信の両軍は、次第にその圧倒的な攻撃力に屈していった。





 数日後、武田信玄と上杉謙信は、信長軍に降伏を余儀なくされた。信長の策略と安土城を駆使した奇襲は、見事に成功を収めたのだ。



 これで、東に残る敵は伊達政宗だけになった。信長は伊達政宗の討伐計画を練りつつ、心の中では次の標的として長宗我部の名を浮かべていた。

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