【織田信長・豊富秀吉】独眼竜の決断
信長は甲斐の国を通り過ぎると、伊達政宗が治る奥州にまで到達した。
「殿、もうすぐ伊達政宗の居城に到着します」
「分かっている。考え事をしてるんだ、少し放っておいてくれ」
「申し訳ございませんでした」
信長は伊達政宗をどう対処するか、考えあぐねていた。朝倉と同じように、物理的に潰すことは容易だ。しかし、そうすると討伐した後に拠点を再構築してから、部下を配置する必要がある。すでに城があるのなら、それを活かすのが効率的だ。
「よし、伊達政宗には使者を出して、降伏を促すか」
伊達政宗が簡単に応じるか分からないけれども、と信長は心の中で続けた。
伊達政宗に「降伏せよ」との書状を送った数時間後には、使者が戻って来た。「降伏する」という伊達政宗からの返事を持って。信長にとっては意外だった。降伏するとしても、返事が来るのに数日はかかると考えていたのだ。これで、奥州は信長のものになった。
「殿、次はどこを攻めますか?」
秀吉はニコニコとしながら、信長に問いかける。
信長は考え事の最中に話しかけられることが嫌だったが、秀吉だけは例外だった。秀吉と話していると、妙案が浮かぶことが多いからだ。おそらく、秀吉の柔軟な発想と信長の奇抜な考えが化学反応を起こすからだろう。
「次は小田原の北条を攻める。そうすれば、武田・上杉軍を両側から挟み撃ちにできる」
「なるほど。東からは安土城で攻め入り、西からは前田殿と明智殿が進軍する。合理的です。しかし、その間、京の周りがガラ空きになるのではないでしょうか」
「心配ない。京に近いのは浅井だけ。利家に浅井を監視してもらいつつ、尾張の光秀には西から進軍してもらう。安土を使って追い立てた武田軍たちは散り散りになる。光秀にはその処理を任せる。敗走した軍を潰すんだ、戦力は少なくても済む」
「なるほど」
「どうやら、小田原についたようだな。ここらで安土を止めるか。北条もこの浮遊する要塞を見れば、伊達と同じく降伏するに違いない」
「おっしゃる通りです」
信長と秀吉が話し合っていると、家臣の1人が大慌てで部屋に入ってくる。
「おい、誰が入室を許可した。秀吉と話してるんだ、邪魔をするな」
「殿、大変でございます! 奥州の伊達政宗がこちらに向かって進軍しております!」
「なるほど、早々に降伏して軍を温存し、即座に攻める。面白い、北条の前に捻り潰してくれるわ」
「それが……武田、上杉両軍もこちらに向かっています。さらに……」
「さらに? どうした、早く言え」
信長は刀を鞘から抜き出すと、家臣の首筋に当てる。
「明智殿が裏切りました。つまり、我が軍は挟み撃ちにあいます」
いつか来ると思っていた。光秀が裏切る日が。
「いかがなさいますか?」
「下がれ。少し考える。秀吉はここに残れ。話がある」
家臣が下がると、信長は秀吉に魔力石を手渡した。
「殿、これは安土を移動させる重要な品物では?」
「一時的にお前に預ける。それを使って北条を滅ぼせ」
「それでは、殿はどうなさるのですか?」
「光秀を討つ。裏切り者には、相応しい最期を迎えてもらう」
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秀吉は手に持つ虹色に輝く石を見つめていた。
「これが、安土を浮遊させている原動力か。これを渡されたからには、北条を滅ぼさねばならない。信長様の信頼に応えるためにも」
秀吉には分かっていた。小田原を潰すのではなく、攻め落とすべきだと。後々、拠点にするために。
「小田原の上空に着きました」と家臣。
「よし、分かった。命じた通りに攻めるのだぞ」
そう、秀吉には作戦があった。軍を消耗せずに小田原を攻め落とす作戦が。それは、石を安土から投げ落とすというものだった。石垣のような大きなものでなくても、そこら辺に落ちている小石で十分だ。空から落とせば、小石であっても地面に到達すれば、凄まじい威力を発揮する。加速力によって、威力が増すのだ。この作戦であれば、農民にでも出来る。
「今ごろ、殿はどこにいるだろうか」秀吉はつぶやいた。
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