【織田信長・徳川家康】家康、三方ヶ原に散る
徳川家康は窮地に立たされていた。越前に織田信長が出兵している間に、武田信玄が攻めて来たのだ。今はなんとか均衡を保っているが、近い将来に負けるのは目に見えていた。
家康は織田信長から兵をもらっていたものの、あまりにも少なかった。信長が「同盟を結んでいるから、形だけでも助けるか」という考えなのは家康にも分かっていた。
家康の領土はあまりにも狭く、兵も少ない。では、どうやって対抗するか。信長のように奇策を考えるしかない。
「どうしたものか……」
「殿、武田軍は三方ヶ原のあたりに軍を集めています。どうにかしなくてはなりません」
「それは分かっている。向こうの軍勢は約3万。それに対して、こちらが用意できるのはせいぜい2万程度。真正面からぶつかれば、間違いなく負ける……。よし、正面に少数の兵を配置して、武田軍を引き寄せる。そして、闇夜に紛れて奇襲する。これなら勝ち目が出てくるだろう」
家康は自分なりの作戦を考えた。奇策と言えるかは分からないが。
家康は三方ヶ原で武田軍と睨み合っていた。この戦が自身の今後を決めることは分かっていた。生き残れば織田信長との同盟も対等なものになるに違いない。家康は夜に奇襲をかける軍の指揮をとることにしていた。
家康は夜になると、武田軍の横から襲撃をかける。これなら武田軍に大打撃を与えることができるに違いない。
しかし、家康を待ち受けていたのは、武田軍の大軍だった。
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「殿、大変なことになりました!」
「そんなに急いでどうした。せっかくの酒がまずくなる」
「それが……徳川殿が三方ヶ原で武田軍と衝突し、家康殿が討ち死にしました」
信長が手にした盃を落とすと、カランカランと音を立て、酒が畳に飛び散る。
家康が死んだ? 同盟を組んでいた家康が? あまりにも急で、信長は状況を受け入れることが出来なかった。信長がいるのは越前。つまり、家康の治めていた尾張は間違いなく武田の手に落ちる。そうなれば、武田信玄が京に上洛しようと試みるのは想像に難くない。それだけは阻止しなくてはならない。
いかにして武田軍を分散させ、上洛を防ぐか。このまま、安土城で甲斐に向けて進軍し、同時に配下の武将の誰かを尾張に向けて進軍させる。もちろん、夜通しで。そうすれば、尾張を渡さずに済むかもしれない。では、誰に任せるか。ここは明智光秀が適任だろう。あいつはどんなことでも嫌な顔をせずに引き受けてくれる。
「光秀、お前に頼みがある。急な話だが、尾張まで行って欲しい」
「お、尾張までですか!?」
「そうだ。お前も知っての通り、家康が討ち死にした。今、尾張は空白地帯になっている。武田信玄より先に尾張に到着し、死守してもらう」
光秀の顔には驚きと困惑が混ざり合っていた。しかし、信長には分かっていた。光秀が最終的には自分の命令通りに動くことを。
少しの間ののちに、「かしこまりました」と言って明智光秀は下がっていった。信長は満足して、盃に酒を継ぎ足していた。秀吉と違って、光秀は領地を与えなくても働いてくれる。それがどんなに危険な命令であっても。
数日ののち、信長のもとに「光秀が尾張の防衛に成功した」との一報が入った。今、安土城は甲斐に向けて浮遊している。朝倉の時と同じく、甲斐に着くまでは戦をする必要はない。
「殿、甲斐の武田と越後の上杉謙信が手を結んだとの知らせが入りました!」
武田と上杉が手を組んだ? あの四六時中、戦をしている2人が? 信長は家臣の知らせに呆然としていた。もし、2人が組んだのなら、甲斐を落としたところで、武田は滅びない。そして、上杉軍と合流して反撃を試みるに違いない。「状況が変わったな……」信長はつぶやく。
このまま無闇に進軍したところで、うまくいくとは思えない。信長は攻めるべき場所を改めた。甲斐を通り越して、先に伊達政宗を攻めることにしようと。
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