【織田信長】まずは、越前の朝倉を

 織田信長はどこから攻めるかを既に決めていた。まずは越前を治める朝倉義景だ。北近江の浅井とは手を組んでいる。妹の市を長政へ嫁がせているのだ、裏切ることはありえない。朝倉を潰せば、京都付近で牙を剥く武将はいなくなる。つまり、全国平定へ大きな一歩を踏み出せるのだ。信長が魔力石を手のひらで転がすと、轟音とともに安土山は少しづつ動き出す。



 浅井長政には事前に領土の上を飛行する旨を伝えてある。ただ、農民たちにまで伝達されているかは分からない。浅井長政も実際に見るまで信じていなかったに違いない。



 それにしても、動く速度が遅い。これでは、普通に攻めた方が早いかもしれない。だが、朝倉を攻略後に配下の武将をすぐに配置できることを考えれば、おつりがくるかもしれない。





 空を飛ぶこと数日。浮遊する安土城は朝倉の諸城を飛び越えて、一乗谷まで攻め入っていた。攻め入る、というよりも一乗谷の隣に引っ越していた。あとは配下の武将で鎮圧するだけというところまでは順調に進んだ。浅井長政が裏切るまでは。



「殿、浅井の軍勢がすぐそばまで来ております! 早く撤退しないと、朝倉と浅井に挟撃されます!」



 信長は家臣の慌てっぷりが面白かった。浅井が裏切ることは想定外だったが、対抗策はある。



「心配ない、放っておけ」信長は一杯やりつつ、のんびりと指示をする。



「しかし――」



「落ち着けって。今から朝倉を滅ぼすから」



 そう言うと信長はおもちゃをいじくるように魔力石を床に転がす。すると、安土山が浮遊すると――一条谷の上に着地した。



「な? 言っただろ?」



 家臣は驚きのあまり、口をポカーンと開けている。その姿があまりにも滑稽で、信長は笑いが止まらなかった。最初からこうすれば良かったのだ。兵を無駄に消耗することもない。こうすれば、他の武将も恐れのあまり、信長の配下になるに違いない。



 信長が浅井長政に「配下になれ」という書状を書くと、「もちろんです」と即答が返ってきた。「そりゃあ、朝倉の最後を見れば、そうなるよな」信長は高笑いが止まらなかった。



 問題は越前に誰を配置するかだった。もし、再び浅井長政が裏切る可能性を考えれば――朝倉の最後を見ればありえないが――抑止力となる人物が相応しい。秀吉は有能だから手元に置いておきたい。光秀はこき使えるから、残しておきたい。



「利家、来てもらったのは他でもない。お前に越前を任せたい」



「ありがたき幸せ!」



 前田利家は深々と頭を下げる。



「利家、お前には浅井を近くで監視してもらいたい。もし、奴が不審な動きをすれば、こうだ!」



 信長は畳を握り拳で殴る。



「つまり、朝倉のように物理的に潰す、ということですね?」



「そうだ。ただ、何度も同じ手が通用するとも思えない。利家、だからこそお前には期待しているぞ」



 前田利家が下がると、信長はこんなキャッチフレーズを考えた。



「泣かぬなら 潰してしまえ ホトトギス」

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