織田信長、浮遊する安土城と共に全国を平定する
雨宮 徹@n回目の殺人🍑
【織田信長】安土城、浮遊する
「城下町を安土山に移築せよ」織田信長は家臣にそう命じた。
家臣たちの間には沈黙が訪れた。お互いに「殿は頭がおかしくなったに違いない」と目くばせをしている。信長は家臣団をにらみつけ、「おい、誰か返事をしないか!」と怒鳴りつけた。
「殿、無茶苦茶でございます。城下町を移築するならば数年はかかります。その間は兵力が落ちます。もし、他の大名が攻めてくれば、ひとたまりもありません」
家臣の一人が恐る恐る意見を述べる。信長には分かっていた。家臣たちが「城下町の移築には反対だが、意見を言わなければ大変な目にあう」と考えていることを。信長の怒りは沸点に達した。
「数年? 数か月で終わらせろ! さもないと――」
信長がそこまで言うと、家臣たちは尻に火がついてように走り去っていった。数か月で城下町の移築。家臣たちの言う通り、数か月は無茶だと分かっていた。しかし、信長にはそれをやり遂げる必要があった。手元にある魔力の石を見つめる。
信長は安土城を築城するにあたって、石垣を近くの山から切り出した石を使っている。ある日のことだった。「石切り場の石が宙に浮きました!」という報告があったのは。信長は「ほら話に違いない」と思いつつも、実物を見てみたい気持ちになった。百聞は一見に如かずという。すぐに取り寄せることにした。
石が宙に浮くという話はほら話ではなかった。家臣が持ってきた石は噂通り宙に浮いたのだ。信長は事の重大性に気が付いた。これをうまく利用できれば、全国統一も夢ではないと。当然、信長は家臣を切り捨てた。自分以外に秘密を知っている者がいてはならない。
信長は魔法の石を石垣に使うことを中止した。石の量にも限りがあるはずだ。自分の構想を実現させるには、無駄遣いはできない。石垣に使う代わりに安土山の周辺に埋め込むことにした。
その様子を見た敵対する大名たちは「大うつけは健在だ」と、噂していた。それは信長の思惑通りだった。若い頃にだらしない服装をして城下町を歩き回ったのも、周りを油断させる作戦だった。今回もそうだ。
信長が考えに耽っていると、いつの間にか秀吉が傍に来ていた。どうやら考え込み過ぎたらしい。
「どうした、秀吉」
「殿、移築には時間がかかりますし、民にも生活がございます。そこで提案でございます。安土山に新たに簡易的な城下町を造ってはいかがでしょうか。殿はしっかりとしたものよりも、スピードを重視しておられるようですから」
「さすが秀吉だ。俺の考えを理解してくれるのは、お前だけかもしれない」
信長は秀吉ならやり遂げるに違いないと考えた。墨俣城を一夜で作りあげた実績がある。
「秀吉、総指揮をお前に任せる」
「光栄でございます。早速、着手いたします」
秀吉に任せて2か月。あっという間に城下町は安土山に移動してた。信長は秀吉の手際の良さに感心していた。あとで相応の褒美を与えなくてはならない。
「皆、今から重要な話をする。よく聞け。今日をもって琵琶湖の近くを離れる」
「殿、どういうことでしょうか。琵琶湖付近を離れるということは、安土を捨てることになりますぞ!」
「最後までよく聞け。この城を捨てることもしない。安土山ごと空を飛ばせる」
家臣団がどよめいた。「殿は頭の病に罹ったに違いない」「そうに違いない」
「皆のもの、殿は本気だ! 静かに聞くんだ」秀吉はそう一喝する。
信長はゴホンと咳ばらいをすると、手に持った石を高く掲げる。その時、ゴゴゴゴゴと音を立てて城が揺れ始めた。
「地震だ! 床に伏せろ!」「いや、敵襲に違いない」家臣団は口々に考えを言うが、信長からしたら滑稽だった。「発想力が乏しいな」と。
「窓から外を見てみるがよい。面白いものが見られるぞ」
家臣団が外に目をやると、そこには空に浮かぶ安土山の姿があった。そう、信長の野望はここから始まる。この安土山と一緒に全国を平定するという野望は。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。