第四章 04 希望の灯り

 西宮警察署を出ると、真帆は、自宅マンションに向かった。


 二月の空は、暗くなるのが早い。十八時前だが、辺りはもう真っ暗だった。


 駐車場の前を通過した時だった。


「真帆ちゃんよね?」と、声を掛けられた。


 真帆が振り向くと、穴瀬が立っている。穴瀬の隣には、いかつい顔をした中年男性が立っていた。


「お友達ですか?」


 穴瀬よりも年上の中年男性が、敬語を使っていた。穴瀬のほうが、階級が上なのだろう。


 穴瀬は、男の顔を見ると「すぐに行きますから」と、先を促した。


 男は、真帆に一礼すると、署内に消えた。


 穴瀬が植え込みまで移動する。真帆も、続いた。


「友達の振りをさせて、すみません。私にご用でしたか?」


 真帆は頷くと、刑事第一課に試作品チョコレートを預けた旨を伝えた。


 他にも、ソコロフでの会議の様子。佳乃がソコロフの会議に、現れなかった事実。吉岡倫子の骨折。倫子から聞いた、三十七~八年前の女子高生の話などを、掻い摘んで話した。


 穴瀬が顔をしかめながら、口を開く。


「確かに《男の子》の存在が、気になりますね。DNA鑑定が頼みの綱ですが、出生届がどうなっているかが、鍵ですね。湖香ねえちゃんの……」


 湖香の幼少期の敬称なのだろう。穴瀬は、照れ笑いを浮かべながら、言葉を正した。


「上浦さんの件と、どう繋がるかは判りませんが。更科教授の過去は、全て洗う価値があるでしょう」


 真帆は、現在の佳乃の状況を訊きたかった。だが、穴瀬の立場を考え、思い留まった。


「近いうちに、お寄りしますから」


 穴瀬は言い残すと、足早にその場を去った。


 今日の穴瀬は、二人で行動していた。佳乃の取り調べだろうか? 


 佳乃の逮捕か任意同行は、まだ、真帆の憶測に過ぎない。佳乃が被疑者となっても、真帆の耳には入らないだろう。だが、穴瀬は、真帆に分かるよう、ヒントを与えると思えた。


 佳乃は今、何処で、何を考えているのだろう?


 真帆は、西の空にかすかに残る、太陽の光を見た。


――希望のあかりが、消えませんように。

 心の中で祈りながら、真帆は家路に就いた。

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