第四章 03 西宮警察署

 真帆は帰宅する前に、西宮警察署に寄った。


 玄関前で、若い張り番の警官に要件を訊かれた。刑事第一課に行きたいと伝えると、受付へ行くよう促された。


 玄関を入ってすぐの受付には、愛想の良い初老男性がいた。柔道の師匠を思わせる体躯だった。


「刑事第一課の穴瀬警部補にお会いしたいのですが。ご在席ですか?」


「お約束でしたか?」


「事前連絡は、しておりません」


 真帆は、芦岡医大の職員証と運転免許証を提示した。


 男性が、真帆の身分証を見ると、口を開く。


「今は外出中ですね」


 一瞬、迷った。だが、真帆は、沙月から預かった小箱を一日も早く、穴瀬に手渡したかった。


「お渡ししたい物があるのですが」


 男性は頷くと、受話器を取った。


「係りの者が下りてきますから」


 しばらくすると、黒いパンツ・スーツを着た若い女性刑事が、下りて来た。女性刑事の案内で、真帆は、刑事一課室へ向かった。


 刑事一課室は、学校の職員室と似た雰囲気だ。室内は、全デスクにデスクトップが置かれ、スクリーン・セーバーが稼働していた。室内には、課長と思われる中年男性が座っている。


 身分証を見せながら、「上浦湖香さんの件で、参りました」と、真帆は言った。


 女性刑事は事務的に微笑んで、口を開く。


「穴瀬に伝えますが、お届け物の中身をご教示いだけますか?」


 真帆は小箱を出すと、「試作品のチョコレートです」と答えた。


 女性刑事が眉をひそめたが、すぐに作り笑顔に戻った。


 真帆は、女性刑事が「証拠品ですね?」と、訊ねてくるのを期待していた。だが、書類を真帆に差し出しただけだった。


 湖香の死の捜査は、進んでいるのだろうか? 女性刑事の表情や言動からは、読み取れなかった。


 書類に必要事項を書き込むと、真帆は刑事一課室を後にした。

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