第四章 彷徨う魂
第四章 01 不自然な事故
火曜日の午前中、真帆は、母校の青松女学院へ向かった。二月は学生の春季期間のため、授業がない。
だが、今日の目的は、食品分析室の利用だ。昨日、沙月から試作品の糖質オフ・チョコレートを預かった。真帆は、それらを分析する予定だ。勤務先の芦岡医大には、食品の分析に適した実験室がなかった。
真帆は、鍵を受け取るため、教務部に寄った。
教務部は、学生の応対用に、窓口がある。真帆は、窓口から室内を覗いた。中学時代からの友人であり、教務部の職員でもある桜田
陽菜は、電話中だった。立ったまま、何度もお辞儀をしている。
揉め事でも、あったのか? 昼食の約束をしていたので、真帆は、しばらく廊下で待っていた。
受話器を置いた陽菜が、真帆の姿に気付いた。血相を変えて、小走りで廊下に出て来た。
「吉岡先生がね。マンションの出入り口で足を滑らせて、病院へ運ばれたそうよ。命に別状は、ないみたいだけど」
真帆は一瞬、「タイミングが良すぎる」と思った。だが、一刻も早く、倫子の様子を確認する必要がある。
「何処の病院?」
「
御影ラファエル病院は、阪急御影駅の北側に位置する総合病院だ。
カトリック系の病院だが、急患も受け付けている。広大な敷地で、病棟の窓からは、阪神間の絶景が見渡せた。
真帆は頷くと、「意識はあるの? お怪我は?」と、矢継ぎ早に質問した。
陽菜は掌を胸に当てて、呼吸を整えている。
「石段の角が、腰に直撃してね。腰骨や背骨が複雑骨折しているみたい。今は、鎮痛剤で眠っているそうよ」
倫子は、神戸市東灘区の御影町に住んでいた。坂の多い街で、低層の高級マンションが何棟か建っている。どのマンションも、坂の傾斜を利用して建っているため、石段が多い設計だった。
倫子の不注意で、足を滑らしたのだろうか? 真帆には、何者かが細工をしたと思えた。
――チョコレートの分析は、プロに委ねよう。
真帆の脳裏に、穴瀬の顔が思い浮かぶ。夕方、西宮警察署に寄れば良い。
真帆は、陽菜を急かして、御影ラファエル病院へ向かった。
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