第2話
「いいわね、いつもラブラブでー。
高徳寺さんって、杏里の家に住んでるんでしょ?」
と小会議室でお昼を食べていると、他の部署の女子社員に言われた。
「そう。
父の知り合いの息子さんで」
知り合いの……
というか。
一成が小学生のとき、彼の父親の会社が倒産の危機に瀕し、両親は失踪。
自殺か、と言われているが、飛び込んだとおぼしき荒波から死体は上がらず、自殺でも出る契約だったのだが、保険金も出ず、会社は倒産。
失踪する前、彼のご両親は、ライバル会社の人間ではあるが、親しくしていたうちの父の許を訪れ、息子を預けていった。
『この間、式典のときに会って遊んだろ? 杏里ちゃん。
あの子のところで、ちょっと待っててくれるかい?』
そう言われて一成はうちに来たらしい。
崖の上から両親の残した遺書と自分に宛てた手紙を見つけた一成は泣き、自分も一緒に死にたかった、そう訴えて――。
それから、私たち一家を恨んでいる。
倒産の原因として、父が勤務しているライバル会社の存在があること。
失踪の際、もしかしたらと疑ったのに、彼の両親を止めなかったこと。
そして、自分を一緒に死なせてくれなかったことを理由に、一成は私たち一家を恨んでいるのだ。
小学生だったあの日から――。
だから、一成は私にラブラブなわけじゃない。
うちの家族を憎み、娘の私が幸せにならないよう、いつも側に居て見張っているだけなのだ。
「杏里、そのお弁当、高徳寺さんのも作ってるのよね。
毎日、大変ね」
と同期の
ああ、うん、と私は曖昧な返事をした。
一成の通っていた高校に入学したとき、一成が、ふふふ、とその高貴な顔に悪役的な笑みを浮かべ、言ってきた。
「杏里、今日から俺の弁当を作ってもいいぞ。
みんなラブラブだとうらやましがり、ますますお前に彼氏などできなくなるだろう」
そう。
一成は、憎っくき私の幸せを邪魔するため、ずっと私と付き合っているフリを続けているのだ。
だが、言わせてもらおう。
一成よ。
貴方がそこまでしなくとも、私は特にモテません。
だが、一成にそう訴えてみても、彼は、
「なにを言う。
お前のような女がモテないはずないだろう!」
そう主張してくるのだ。
……あのー。
貴方の中の私の評価が、他の誰より高い気がするのですが、どうでしょう?
そして、私は高校に入学してから、毎朝。
早朝、叩き起こされては、作らされていたのだ。
一成指導の許、ペアのラブラブ弁当を。
まったくもって、意味がわからない。
そして、就職してからは、
「朝忙しいのに、お前に作らせることがわずらわしいっ。
俺がチャッチャと作ってやるから、持ってけ、弁当」
とほぼ一成が作っているうえに、私が手を出さなくなったので、どんどん弁当の内容が手が込んできて豪華になっていた。
「杏里のお弁当、いつもすごいよね。
……キュウリが
これ、どうやって作るの?」
そう感心したように暁美に問われ、
「……ネット見ながら作ったから忘れちゃった」
と答える。
いつも起きたら出来てて、ランチバッグに入ってるからわかりません、と思いながら、苦笑いした。
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