26 蛇の道

 階段はそこまで急勾配きゅうこうばいではなく、緩やかな登りという感じだ。

 それが同じ方角に進んでいる感じではなく、右にいったり、左にいったりとクネクネしている。

 まるでヘビの上を飛んでいるような感覚になってくる。


「奥まで進んだ気がするな……一旦電話かけてみるよ」

「そうだね」


 カバンから端末を出し、ゲンにかけてみた。


「……繋がらないみたい」

「やはりここ、特殊な星のようね」


 端末をカバンにしまい、ひたすら階段を登っていく。

 登っている途中に鳥居を何度かくぐったが、特に変わった様子はなかった。

 少し気になったのが、進んでいくうちに辺りが暗くなっていくことだ。

 まだ夕暮れという感じだが、もっと進むとどうなるのだろうか。


 そんなことを思いながら更に進むと、また鳥居があった。


「また鳥居だ……」


 よく見ると、更に先にも鳥居が配置されていた。

 手前のを含めて2ある。

 ここだけ真っ直ぐ伸びた階段。

 かなり長い。

 永遠に伸びているんじゃないかと錯覚してしまう。


「とりあえず進むね」

「……うん」


 夢羽に確認した後、鳥居をくぐった。

 くぐった瞬間だけ、制服の温かさが増す。

 そして、更に辺りが薄暗くなった。


「くすくす……。どんどん近づいてるね。くすくす……」

「くすくす……。ほんとだ近づいてるね。くすくす……」


 声が辺りから聞こえるが、双子の姿は見られない。

 鈴の音がどの方角からも聞こえる。


 気にせず前に進み、また鳥居の前に着いた。

 鳥居をくぐり、先へと進む。

 また制服の温かさが増す。

 辺りは完全に真っ暗になった。


「「くすくす……」」


 辺りから笑い声が聞こえる。

 鈴の音も鳴り止まない。


 私は気にせずまた前に進んだ。

 もう辺りはすっかり真っ暗で、月光が木々の隙間から漏れ出ている。

 それだけが唯一の光だ。


 しばらくすると、また目の前に鳥居が現れた。


「また鳥居?」


 一旦立ち止まった。

 相変わらず、くすくすという笑い声と鈴の音は辺りに響いている。


「なんだろ? この先に何かがあるかな?」


 私は鳥居を通して向こう側を見ようとするが、霞が濃くて全く見えない。

 遠くが見えないなら、近場ならと思い鳥居を見上げる。

 鳥居の上には十三と書かれていた。


「十三? なんだろう……」


 考えてもわからなかったので、また鳥居に近づいてくぐろうとした。すると


「わ! また制服が光った!」


 その光った状態で鳥居をくぐると、また階段の続きがあった。


「あれ? まだ続いてる……」


 また階段を進むと、また鳥居があった。

 その鳥居にも『十三』と書かれていて、向こう側が霞がかって見えない。

 さっきと違うのは、なぜか笑い声と鈴の音が鳴り止んでいる点だ。


「笑い声が止まった……。ここって同じ鳥居だよね?」


 試しに、鳥居の柱付近に1個だけ包装されたおにぎりを置き、またその鳥居をくぐって前へ進んだ。

 くぐろうとすると、やはり身体が光る。


 また階段を進んでいくと、『十三』と書かれた鳥居に着いた。

 よく見ると、さっき私が置いたおにぎりがそこにあった。


「ずっと同じ所を通っている……。狐につままれている気分だわ……」


 鳥居の柱の近くに寄る。

 そしてその近くに置いているおにぎりを見ながら鳥居をくぐった。

 すると


「あ! おにぎりが消えた!」


 くぐった瞬間、パッとおにぎりが視界から消えた。

 鳥居をくぐり直してもおにぎりが戻ってくることはなかった。


 鳥居の上を見ると、『十二』と書かれていた。


「戻っているね。たぶん、『十三』の鳥居から先に行かないように守られている?」


 そう言うと、制服がいつもと違う光り方をした。


「ん? 違うの?」


 そう言うといつも通りの光り方をした。


「今のが肯定ってことか……じゃあ、同じ所を繰り返し歩いているのは夢の影響で、つくちゃんは何かから守ってくれている?」


 そう言うといつも通りの光り方をしてくれた。


「なるほど……既に夢の主に何かされているわけね」


 私はまたおにぎりの置いた鳥居まで進み、くぐらずに鳥居の柱に手を置き、そのおにぎりの横に立った。

 後ろから鈴の音と足音が近づいてくる。


「双子ちゃん達! このおにぎりはここに置いておくからあげるねー! 今から会いに行くから、これ食べながら待ってて」


 振り向かずにそう言い、喧嘩しないようにもう1個の包装されたおにぎりを置いてた。


「ありがとね、お客さん。おにぎりもらうね」

「ありがとね、お姉さん。おにぎりもらうね」


 後ろから双子の声が聞こえたが、振り向かずに鳥居の前に立った。


「大丈夫だよ、つくちゃん。私は戦える」


 そう言うと、制服が微かに光る。

 そして、鳥居をくぐった。


「ねえ風羽。聞いていたらいいんだけど……」

「……うん」

「貴女、今どこにいるの?」

「…………」


 夢羽のその言葉と共に、鈴の音がどんどん近づいてくる。

 そして、


「「いらっしゃいませ、お客さん(お姉さん)」」


 気配と共に、左右の耳から声が同時に聞こえた。

 その声と同時に、景色がゆがむ。


---


 私が立っていたのは鳥居のある階段ではなく、座敷がとても広い建物の中だった。

 前後左右ずっと座敷が広がっているが、区切りがちゃんとあるのか、障子戸が設けられていた。


「……ここどこ?」


 私は念の為にホルスターから非殺傷弾の入った銃を抜き、構える。


 目的地がわからないので、ひたすら真っ直ぐ歩く。


「ねえ夢羽、ここどこだと思う? ……あれ? 夢羽?」


 話しかけても夢羽が反応してくれない。

 ふと、夢羽が結ってくれた団子ヘアを触ってみた。

 だが、そこには団子ヘアは無く、結われていない髪だけだった。


「かんざしも無い……。つくちゃんは? いる?」


 制服に憑いているつくちゃんに話しかけた。

 すると、制服が微かに光って反応してくれた。

 どうやらつくちゃんは一緒のようだ。


「かんざしが通信機代わりなのか? てかどこで無くしたんだろ……。いや……さっきの夢羽の反応だと、私が既にあの鳥居の階段にはいなかったのかも」


 そう発言すると、返事するようにつくちゃんが少し光る。


「特定の事をした魂を連れ去る夢ってことかな? 例えば、同じ鳥居を何度もくぐらせるとか……」


 そう言うとつくちゃんが光って反応した。


「てか、あの身体って魂で作られているんじゃないの? 魂から魂抜き取られた?」


 つくちゃんは微かに点滅している。

 よくわからないと言っているのだろうか。


 立ち止まり、座敷の中を確認した。

 よく見ると、星間郵便局の制服がハンガーにかけられていたり、カバンがタンスの上に置かれていたりと、他の局員がいた痕跡が残されている。

 私はその制服やカバンから、局員の識別英数字の書かれたタグを探し出し、それを回収した。


「たしか、この夢の星で行方不明になった局員の数は……25名だったね……改めて思い出してもとんでもない数だよな……」


 この星に行く前に、ゲンとタツロウと夢の星調査員のチョウさんとの作戦会議の時に、行方不明者数を聞いた。

 同じ夢を見ている不思議な双子というだけでも珍しいのに、その2人が25名という行方不明者を出していると考えると恐ろしい。


 そう考えながら、局員の物と思われる物を片っ端から探っては移動してを繰り返している。

 カバンの中に配達前の手紙がたまに残っていたりするので、それらも回収した。

 そうしていると、いつの間にか25人をあっという間に超えてしまった。


「予想以上の行方不明者だな……まだ残ってるのかな? それとも……」


 私は首を横に振る。

 嫌なことを振り払いひたすら歩いていると、畳の上に置いた局員の物が視界に入るようになってきた。

 回収済みのカバンや制服は畳の上に置いたので、それ以外の場所にある物はまだ触れていないという事になる。

 それが少なくなってきている。


「……もしかして同じ所ぐるぐるしてる?」


 1度触れた物が行く先々で見かけるようになってきたって事は、既に訪れているという事になる。


「自身の荷物を置いて目印にして脱出を図ったけど、結局出る事が出来ずに消滅したという感じかな……」


 カバンの中に食糧が全く無いという事は、そういう事なのだろう。


「……という事は、私も同じ状況で、脱出しないと同じ目に合うってことか……」


 私は夢の主に繋がりそうな物がないか、周囲を観察した。


「そういえばさっき、鈴の音がしていたな……。ここではどうだ?」


 私は耳を澄ませる。

 すると、微かにだが鈴の音が聞こえた。


「あっちか……」


 視界から入ってくる情報に惑わされず、音だけで夢の主を追いかける事にした。

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