25 鳥居の並ぶ階段と微かな風で散る桜と椛
「それで? 私、部長になって何しないといけないの?」
机の椅子には座らず、ソファがあったのでそっちに座った。
「ムウには、軍部の中でも重要な救助隊を任せたい」
「救助隊……前に局員を連行しようとした時に呼んだ所?」
「いや、あれは軍部の警察隊だ。悪い事をした局員を逮捕する隊だな」
「ここにいるメンバーが救助隊で当たってる?」
ここにいる軍部の局員をざっと見たが、警察隊というより救助隊って感じのメンバーが揃ってる感じがした。
「正解だ。ここにいるのが全員ではないが、これからムウが指揮する事になる」
「指揮なんてした事ないのに……大丈夫かな?」
「大丈夫だ! そのために俺がいる!」
タツロウが自信満々に言った。
「……では、今まで通り引き続き宜しくお願いします」
「宜しくお願いされた!?」
タツロウがオーバーリアクションをしている。
「何もしないわけではなくて、最前線に出て、今回みたいに夢の主や巻き込まれた局員を助けたいと思ってる。そのサポートを救助隊隊員にお願いしたいかな」
私がそう言うと、
「さすが歴代最速でありますな!」
「すごい隊長の下に就けて光栄であります!」
「感無量であります!」
「隊長素敵です!」
と、ざわついた後、ゲン以外から拍手を貰った。
「ありがとうございます」
私が一礼をすると、慌てる様子を見せる隊員達。
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そして残ってもらったのが、夢の星調査員のチョウさん、副隊長のタツロウ、そしてゲンだ。
「じゃあムウ、今からお前には重要なミッションをお願いする」
ゲンが、1枚の書類をテーブルの上に置いた。
「……これは?」
「ふむ……帰らずの星と言われている夢の星ですな」
チョウさんはメガネをくいっと上げる。
「局長! いきなりハードな星に行けというのですか! 鬼畜の所業だ!」
タツロウはソファから立ち上がる。
「やかましいわ! ……夢の主に会えとは言わん。郵便受けがあれば、そこに
ゲンも立ち上がり、タツロウの頭にチョップをした後、1通の手紙を書類の横に置いた。
「桜の木と赤い柱のようなものが見えるね」
手紙を受け取り、あれやこれややり取りをした後、私は1人で帰らずの星と言われている夢の星に向かっていた。
「それにしても、こんな危険な星があったとはね……」
「それに、同時に1人ずつしか入れないっていう入場制限まであるとか、面白い星よね」
そう言いながら、目的地である夢の星を眺めていた。
「どうして、危険な星って綺麗なんだろうね」
「バラもそうよね。身を守っているのかな」
「さあ? とりあえず入るよ」
2種類の色が混ざった色に覆われた星という感じで、桜以外に何があるのか、遠目ではわからなかった。
私は夢の星を観察しながら降下を開始した。
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重力に身を任せて下へ下へと下りていくと、桃色と
「桃色は桜だけど、橙色はなんだろう?」
私はそんなことを呟きながら木々への衝突を避けるため、どこか着地できそうな場所を探すために落下速度を減速させた。
「どこか、入れる場所ないかな?」
「うーん……」
しばらく空を飛んでいると、
「あれ! 入り口じゃない?」
1点だけ違う部分を見つけた。
その1点に近づき上から覗き込むと、夢羽の言う通り入り口のようになっていた。
「たしかに入り口だね。あとあの橙色、
「あ、たしかにそうね」
春と秋の混ざる星……現実ではほぼ無い、夢ならではの組み合わせだ。
「降りてみるね」
気を引き締めて穴の空いた所に急降下した。
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降りた場所は山道の入り口のようになっていて、地面は全て桜の花びらと椛で覆われて判別しにくい状態になっていたが、階段が上へと伸びているのは確認できた。
その階段のスタート地点に鳥居が立っている。
「鳥居か……」
「現世では、子授かりの神が
「でもなんか、ここは違う気がする」
「……あら? 風羽がそう思うなんて珍しいわね。あたしの影響かしら?」
「いや違うよ。そう思ったってだけで、子授かりの神かもしれないしね」
レンタカーを回収した後、辺りを警戒しながら鳥居へと近づく。
特に生物の気配は感じない。
たぶんこの星には生物がいないのかもしれない。
あと、風も微かに吹いているという感じで、とても静かな星だ。
桜の花びらと椛が舞い、より幻想的な雰囲気を出している。
「……ほんと、なんでこんな美しい夢の星なのに、たくさんの局員が行方不明になるのは何でだろう」
「美しさに魅了されて囚われたのかしら……」
「それだとあまり景色に見惚れるのは怖いね」
鳥居をくぐり、階段を登ろうとした。すると
「お客さんだ。お客さんだ。くすくす……」
「ほんとうだ。お姉さんだ。くすくす……」
「また、私達の一部になるね。くすくす……」
「魂のカケラの一部になるね。くすくす……」
階段の上の方に、おかっぱヘア? の黒髪の双子の小さな子ども達が見下ろしていた。
巫女服を着ており、それぞれが左手と右手に鈴がたくさんついた物を持っていて、手を動かすたびにチリンチリンと音を出している。
「あの! この夢の主ですか? お手紙が届いています!」
私は聞こえるように大きな声で話す。
「悪霊のお客さん。お客さん。こっちにいらっしゃい」
「悪霊のお姉さん。お姉さん。こっちにいらっしゃい」
くすくすという笑い声と共に、双子の子ども達が階段の上へとすっと消えた。
くすくすという笑い声と、チリンチリンという鈴の音はまだ辺りに響いている。
「あの……! 消えてしまった……」
カバンから出した手紙を再び戻した。
「おかっぱヘア? どうしてヘアスタイルを弄らない現世の人が……。それに……」
夢羽は何かぶつぶつ言いながら考え事をしている様子。
「とりあえず追いかけるよ!」
私は夢羽の返事を聞く前に、後を追うように鳥居をくぐり階段を上がった。
鳥居をくぐろうとした瞬間、銃からつくちゃんが出てきて、すぐに局員の制服に憑いた。
身体が淡い光に包まれる。
そして、その光は徐々に暗くなっていった。
「つくちゃん? ……どうしたんだろ」
制服はいつも通りに戻っていた。
私は階段を見上げ、そして鳥居をくぐった。
その瞬間、身体が温かく感じた。
「……?」
首を傾げ、そして階段を上がる。
上を見るとヘトヘトになりそうなくらい伸びている。
先が霞みがかって、どこまで続いているのかもわからない。
「うへ……行くか……」
階段を一歩一歩と上がっていった。
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