24 星間郵便局軍部

 メグルに手紙を渡して思いのチカラを回収した私は、寝たきりのメグルが起きて、強制的に星の外へと出された。


「おうムウ! 夢の星での救助活動ご苦労だった」


 そして私は今、局長室の机の前で報告をしてゲンに労いの言葉を貰っていた。

 ゲンの机の上には、山積みになった書類だらけで、ゲン本人がチラッとしか見えない。


「はい。忙しそうなのでこれで失礼します」

「そんな冷たい事言わないでくれよー……ずっと書類としか対面してないから、そろそろ誰かと話したかったんだよ!」


 ゲンはロボット顔なのに、泣きそうな顔を表現している。

 たしかに、この書類だとすぐには終わらないだろうね……。


「それで……報告書の通りの報告をすればいいの?」

「それだとつまらん。何か面白い事を話してくれ」


 泣きそうな顔を止め、今度はドヤ顔をしている。


「つまらないって……良くないけど、まあいいでしょう」

「なんか偉そうだな……」

「……話しませんよ」

「すまんすまん。それで?」


 ゲンは目を輝かせている。


「緑の光線を当てられました」

「…………それだけか?」

「はい」

「待て待て! その緑の光線を当てられてどうなった!? どこから照射された!?」


 ゲンは椅子から勢いよく立ち上がる。


「まあまあ落ち着いて」

「落ち着いてられるか! 面白い話でもないし!」


 たしかに面白くない。


「実は続きがあって……」

「焦ったい! 早く話せ!」

「わかったよ……」


 私は端末を取り出し、メモ帳を開いた。


---


 戦場の星上空。放り出された後少しボーッとしていると、


「ねえ、風羽」

「……なーにー?」

「……何してるの? ショックでも受けてるの?」


 宇宙で寝そべる格好をしていたが、夢羽が痺れを切らしたようで、話しかけられた。


「そんなことないよ。どしたの?」

「……まあいいわ。それよりそのミニミニ光線銃だっけ、カイから取った物」


 カバンの中から、言われた銃を取り出した。


「うん、そう言ってたね」

「これ、しばらく秘密にしておいた方がいいかもよ」

「どうして?」


 周囲を見てホッと一息つく。

 そして、誰かに見られないうちに、またカバンの中に入れた。


「星間郵便局が一枚岩じゃないからよ」

「まあゲンがあれだからね……。壺を置く謎の局員達もいるし、そうだろうなって思ってたよ」

「壺か……邪気を集める壺だったよね」

「うん、そう。何のためにあの黒い水たまりを集めているか、まだわからないね」

「だから報告書にも、あの子にも内緒よ?」

「あの子?」

「あーゲンね」

「……? わかった」


 私はレンタカーを出し、そして星間郵便局へと戻った。


---


「(ゲンにも内緒だったよね)」

「うん、そうだよ」


 私は頷く。


「えっとね、緑の光線は懐中電灯のような物で出ていたよ」

「ふんふん……それで?」

「それに当てられて、夢の世界の住民と同じくらいのサイズになったの」


 ゲンはそれを聞いて驚いている。


「報告書に、その部分はぶかれてないか?」

「現実的ではないからね。まあ実際、その光線で小さくなったのは事実だよ」

「そうか……それで、その懐中電灯は持ち帰ったのか?」


 ゲンは再び興味津々で椅子から立ち上がる。


「戦っている時に壊されちゃったよ……」

「そうか……残念だ」


 ゲンは残念そうな顔をし、椅子に座り直した。


「ところでゲン、胡散臭い科学者って知ってる?」

「なんだよ、藪から棒に……」

「その夢の主の1人が、胡散臭い科学者っぽい局員から、その緑の光線を貰ったらしいよ」

「……胡散臭い科学者か……聞いた事ないな。あ! そうだ!」


 ゲンは何かを思いついたようで、書棚から分厚いマニュアルのような物を引っ張り出してきた。

 その背表紙には『星間郵便局軍部』と書かれていた。


「これだこれ! ごほん……えー、ムウ殿」

「……なにいきなり改まって」


 私は一歩引く。


「引くな! えー、ムウ殿」

「そこから再開するのね……はい」

なんじをこれより『星間郵便局軍部部長』に任命する」

「はぁ…………はぁ!?」


 書類に埋もれているゲンを背伸びして見る。


「まあ待て。落ち着け」

「いきなり部長に任命されても困るよ。そもそも軍部でもないし」

「そりゃ皆最初は軍部じゃない」

「はぁ……それで? 軍部じゃない人にいきなり部長を任せる理由は?」


 そう聞くと、ゲンが分厚いマニュアルのような物を私に渡してきた。


「ここ……ここに『24時間以内に、5人助けた者を軍部の部長に任命すること』と書かれている」

「何その難易度の高い条件……てか、私4人しか助けてないんだけど」

「たしかに、4人分しか報告を受けてない。だが、あと1人は逃げたんだろ?」


 私はアイリスの事を思い出す。


「戦った後、逃げられたね」

「ああ。だからそいつはカウントしない」

「しないんかい! じゃあ、誰がカウントに入ってるの?」

「夢の主だ」


 ゲンが1枚の書類を渡してきた。

 それを見ると、めぐるについての報告が書かれていた。


「学校で突然倒れた後、病院でずっと意識不明の状態だったみたいだな」

「あーたしか、もう1人の夢の主カイに宣戦布告されて、起きられなくなったとか、そんな感じだったはず」

「ああ。そして、その廻が目を覚ましたようだ。ムウが、もう1人の夢の主カイを倒したからだろう」

「ということで、夢の主も含めて5人だ。過去最速の記録だから、軍部も文句は無いだろう」


 ゲンは廻についての報告書を奪い取り、それをファイルにつづった。

 そして、軍部のマニュアルも回収した後、扉の前に立った。


「ゲン、仕事放置は良くないよ?」

「これも局長の務めだよ。ほら、着いたかな?」


 局長室の隣に、部長室があった。

 その扉を開け、中を確認した。

 そこには、ズラッと横に並んだ軍部の人達がいた。


「あ! 酒豪のタツロウさんもいる! 軍部の人なのに捕まってたのね」

「あのアルコールは飲み物じゃないわ! 飲んだら死ぬ! もう死んでいるがな! ははははは!」


 タツロウは楽しそうに笑う。


「なんだ? 知り合いがいたのか?」

「うん、さっきの夢でね」

「ふむ……じゃあお前、ムウの案内をしてやれ」

「りょーかい! お嬢、あれから他の人も助けたってな。やはりすごい子だな」


 タツロウは机の椅子を指した。


「えっと?」

「そこがお嬢の席だ」


 タツロウがそう言ったと同時に、全員が敬礼をする。

 私は椅子の前に立った。


「申し遅れた。俺が副部長兼救助隊副隊長のタツロウだ」


 私の横に立ち、私の方を向いて敬礼した。

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