17 戦場の星

 夢羽の手のひらの上で、火の玉が踊るように動き回っている。


付喪神つくもがみって?」

「あれ? 知らないの?」

「うん……」

八百万やおよろずの神は?」

「え? 神様って子授かりの神様しかいないよね?」

「そうか……こっちではそうだったわね……」


 夢羽が身体を横に向け、ボソっと呟いている。


「えーっと……それでその付喪神はどういった神様?」

「んー……愛着の湧いた物とか、よく使っている古い物とかに宿る神様の事って言えばいいのかな」

「へぇ……そんな神様がいるんだね。それであの小銃に宿らせてって言ってたんだ」

「うん、そうよ。ちなみに八百万の神は、それも含めたあらゆる物の神様の総称だね」

「なるほどね……。」


 夢羽は私に、火の玉の形をした付喪神を渡してきた。

 私はそれを受け取った。

 だが、付喪神は私の手から腕へ上がり、腕から肩、肩から私の後ろに移動した。


「あ、どっか行っちゃった!」

「あらら。つくちゃん、かんざしが気に入ったみたい」

「つくちゃんっていうんだ、この子」

「そうよ。この世界ではその子だけだから、仲良くしてあげてね」


 あの見た目で神様なんだけど、どう仲良くすればいいのかな?

 私は首を傾げ、そして頷く。


「つくちゃんも預けたし、ここからが本題よ」

「え? 本題? つくちゃんに関係するの?」

「関係するというより、頼れる相棒かな」


 私の後頭部で気配を感じさせるつくちゃん。


「相棒が必要な事……場所? 私にどこへ行けって言うのさ」

「あら、お察しがよろしいわね」

「……また邪気関係?」

「うん、そうよ。ものすごく危ない星があるわ」


 夢羽は1通の手紙を、いつの間にか私の側にあった局員用のカバンから抜き取った。


「ここね」

「え? 夢の星って選べるの?」

「ちょっとした裏技よ。風羽にはまだ出来ないわ」

「……なんか、夢羽がすごい人に見えてきた……」


 私は半分冗談で、両手を合わせ拝んでみた。


「今までどう見えてたのよ。てか拝まなくていいわよ」


 夢羽は私の両手を抑える。


「幼馴染……いや違うな……姉さんかな」

「姉さん! ……なんか新鮮な響きね」


 姉さんは、カップにおかわりの紅茶を入れてくれた。


「それで姉さん、私はどこに行けばいいの?」

「……なんか歯がゆいから夢羽でいいわよ……それで行ってほしい場所なんだけど……」


 姉さんもとい夢羽は、テーブルに置いてある手紙の切手を指した。


「……え? ここって……」

「噂になってるでしょ。通称『戦場の星』よ」


---


 夢羽からの依頼で、戦場の星に行ってほしいと言われた私は、十分な食糧を買い込み、迷彩柄のリュックに食糧と局員用カバンを入れ、レンタカーで宇宙へと出た。

 そして、多忙で動けないゲンに同行のお願いはせず、1人で戦場の星に来ていた。


「……たしかに戦場なんだけど……やっぱり噂って尾ひれがつくもんなんだね」


 ちょっと離れた位置から戦場の様子を見ている。

 遠くで戦が行われているように見えるが、実際は近い。


「遠い物は小さく見えるっていうけど、あの大きさだと近くても小さいよね……」


 目の前で、全身ツヤツヤ兵隊が双方向で撃ち合いをしていた。

 そう、ここは『の戦場の星』だ。

 私の足首から膝関節の長さの半分の大きさしかないおもちゃ同士が、大豆の弾を使って戦争をしている。


「###$@@! #$%$!!」


 私の後ろから、理解できない言葉が聞こえてきた。

 うつ伏せになって戦場の様子を見ていた私は、上半身だけ起こし後ろを見た。

 そこには伏兵なのか増援なのかは知らないが、おもちゃの軍勢が並んでいた。


「おっと、通行の邪魔だったかな? 私に構わず、どうぞどうぞ」


 私は立ち上がり、道を譲ってあげた。


「##@@$!!!」


 先頭にいる他とは色が違う偉そうな兵士が、私を指して何かを叫んだ。

 すると軍勢の方から、数え切れない程の大豆が飛んできた。


「わわ! 地味に痛い!」


 身体の方に撃たれても平気だったが、顔に撃たれ始めてチクチクして痛かった。


「$$#@$%!!」


 先頭の兵士が叫ぶと、弾幕の雨が止んだ。


「ふう……痛かったよ! もう……」


 私が顔を鏡で身体は目視で、腫れてないか確認した。

 その時、小銃がチラっと見えた。

 すると偉そうな兵士が、少し大きめの銃っぽいのを取り出した


「わー!?」


 その変な銃から緑色の光が出て、それが私に命中した。

 その緑色の光に包まれ、気を失った。


---


 起き上がると、牢のような所にいた。

 両腕、両足共に、手錠のような木製の枷で捕縛されていた。

 牢の前には、さっきの兵士のような人が見張りをしていた。


「あのー?」


 私は見張りの兵士に声をかけた。


「!!! 捕虜が起きたぞ!」


 見張りの兵士は周囲に聞こえるように、大声で報告をした。

 すると、さっき先頭にいた他と色が違う兵士が、私の前で偉そうに仁王立ちした。


「……起きたか、敵軍の兵器め」

「へ、兵器?」


 予想外の事を言われたので、首を傾げた。


「あんな巨大ロボ、どう見ても兵器である。最近敵軍も技術力が向上したようで、巨大ロボを何度か見かけるようになったのだ」


 え? それってどう考えても局員だよね……。


「えっと……その巨大ロボさん達は、今までどうしてたんですか?」

「この素晴らしいミニミニ光線で小さくして、お前と同じように捕縛している」

「良かった……消滅はしていなかったようだね」


 私は周囲を確認する。

 どうやら荷物は全て取られたようで、残ったのは局員の制服とかんざしだけのようだ。


「何が良かっただ。お前もあいつらと同じように、これから強制労働に組み込む。楽しみにするがいい。ガハハハハハ!!!」


 色違いの兵士は、高らかに笑いながらこの場を去った。


「兵士さん、食べ物とかは無いの?」

「他もそうだが、巨大ロボのくせに食事をするのか。世話が焼ける奴らだな」


 そう言い、兵士は何かを投げてきた。

 私はそれを両手で取った。

 取ったそれを見ると、棒状のクッキーが2本入った袋だった。


「それがお前の今日の飯だ」

「え? これだけ?」

「それだけだ。もっと食いたかったら働け」


 そう言い、兵士は前の方を向いた。

 これ以上質問しても、聞いてくれなさそうな雰囲気を出している。


「(さて、どうしたものか……。武器も全部取られたし)」


 そう思いながら、後頭部のお団子を触る。


「(あ、そういえば夢羽と話せるんだっけ? おーい夢羽、聞こえる?)」


 私は夢羽を呼ぶために頭の中で叫ぶ。


「聞こえているわよ。どうしたの……って、ピンチってやつ?」

「(うん。似たような状況。あと、この星で何人か局員が行方不明になってるんだけど、全員無事みたい)」

「そうなんだ! それで、あたしは何をすればいいのかしら?」

「(局員全員の救出と、脱出をしたいからサポートしてほしい)」

「うーん……」


 夢羽はなぜか黙る。


「(どうしたの?)」

「あたし、直接的にサポートできないからどうしようって思ってね」

「(そうなの? 例えばどんな事できる?)」

「見る事しかできないから、兵士さんの視界から逃げるサポートしかできないわよ」

「(あー……いわゆるステルスゲームだ)」

「たしかにそうだ! じゃあ第一目標は、風羽の荷物奪還だっかんだね」

「(そうだね! じゃあまずは……これをどうにかしたい!)」


 私は木製の枷を見る。


「じゃあ、あたしがサポートするから試してみて。あ、あと、これも必要だから1個ずつ使って」


 突然目の前に、小さな鉄の棒がたくさん入った箱が現れた。


「(なにこれ?)」

「あーそうか……これも使った事ないんだよね。ヘアピンといって、髪を固定したりする時に使う道具だよ」

「(そんなのもあるんだね……てか、今使わないんじゃない?)」

「使うよー。それと、かんざしも抜いて使って」

「(これも?)」


 私は団子ヘアからかんざしを抜いた。


「ヘアピンとかんざしを鍵穴に入れて。あ、ヘアピンは開いてね」

「(ここ?)」

「うん、そう」


 ヘアピンを曲げて開き、鍵穴に挿しこんだ。

 そしてかんざしも鍵穴に挿しこんだ。


 夢羽のアドバイスを聞きながら、木製の枷をどうにかピッキングしようと試みた。


「(できないよ!)」

「大丈夫。あと少し右だよ。そうそう。そこだ!」


 かんざしを突くと、枷が外れ両手が自由になった。


「(よし次!)」


 私は兵士の後ろに立ち、肩をトントンと叩いた。

 兵士は何事と言いたそうな顔をして、こちらに振り向く。

 その顔を、枷で下から殴り飛ばした。


「うわー……痛そう」

「(兵士さんごめんなさい。やらないといけない事があるの)」


 倒れた兵士から牢の鍵を取り、鍵を開ける。

 そして足の枷も外し、自分の荷物を探すために奥へと進んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る