【Ⅰ】夢と現の星間郵便 第2章:現れる脅威と新たな力

16 夢羽のかんざしと付喪神

 砂と廃墟の星から脱出した私達は、星間郵便局へ帰還した。

 どうやらゲンは、書類仕事全てをオペレーター部に丸投げしていたようで、そのせいで信頼がガタ落ちだったようだ。

 信頼を少しでも回復させるため、戻ったら仕事をしてと言っておいた。


「……うーん。この行列はひどかったな……。預金のお金をそのまま使えるようにしてくれないのかな?」


 そして私は、銀行のATMからお金を下ろした後、商店街のベンチで餅とおにぎりを食べながらのんびりとしていた。


「……おい、あれ見てみろよ。軍用だ」

「戦場帰りだったのかな? まだ若いのに大変な思いしたんだろうな……」

「でもほら、子持ちじゃないか? 髪長いぜ」

「……ってことは、あの見た目で大人ってことか? 若すぎるな……」


 近くで話し声が聞こえた。

 内容的に私の事だろう。

 人通りが多い所では、やっぱり目立つよね……。あれ? でもさっき、髪の件の前に『軍用』って言ってたような……。


「そういえば軍用で思い出したんだが、出たらしいぜ」

「出たって何がだ? 幽霊はいっぱいいるだろ。ほら」

「違うわ! 戦場の星だよ」

「どうせ、ミリオタか戦争映画好きが見た夢だろ。そのくらいはあるだろう」

「それだったらまだいい。だがそれが、その夢の星に行った局員が行方不明になったらしいんだわ」

「それは怖いな。早く別の夢を見てくれる事を祈っておくわ……」


 やっぱり軍用って言ってる。何の事だろう? あと戦場の星? 行方不明? うーん、ちょっと情報量が多いから、ゲンに聞いてみよう……。

 私は立ち上がり、歩きながら端末を操作し、ゲンに連絡をした。


「ただいま多忙のため、電話に出ることができません」

「いや出てるじゃん……いくつか質問したいんだけどいい?」

「……少なめに頼む」

「3つくらいだよ。1つ目が、さっきから軍用って周りから聞こえるんだけど、何?」

「…………あー」


 ゲンは何かを知っているような、そんな間があった。


「知ってるでしょ」

「すまん、言い忘れてた」

「……軍用に関係する?」

「ああ。というか、他の夢の星で使ってる時点で気づけよ」

「どういうこと?」

「夢の中で拾った物は、自身の物になる。夢の外に持ち出す事も可能だ」


 私は手荷物を確認した。

 たしかに、夢の星で入手した小銃や迷彩柄の大きなリュックを持っている。

 更によく見ると、制服が埃だらけになっていた。

 これじゃ、たしかに戦場帰りって言われるね……。そういえばおにぎり屋のおばちゃんもびっくりした顔してたっけ……帰って風呂に入ろう……。


「あ、そういえば昨日、夢の星で食糧調達できるって言ってたね。あれってそういう事だったんだ」

「そういう事だ。持ち出せなかったら食糧にならんしな」

「なるほどね……。んで、2つ目だけど」

「手短に頼む」

「……局員とかの死者って、死ぬ……いや、消えるの? あと、行方不明になったりする?」


 マンションのエントランスホールに着いたので、鍵を開けて自動ドアを開いた。


「ああ、消滅するぜ。現世での死因の中で、病気以外の死に方はだいたい消滅するな」

「なるほど……」

「あと、行方不明も現世と同じだ。消滅した証拠が出てこないから行方不明だ。持ち物とか配達予定の手紙とかが出てくると、消滅確定だ」

「そうなんだ……」


 私は悲しくなったので、うつむく。


「最後の質問ね。『戦場の星』って何?」

「噂の星か……その名の通りだ。夢の内容が戦場な星だ。ちなみに、その身で銃弾を受けて蜂の巣になったら、消滅するからな」

「な……なるほど……」

「もういいかー? 切るぞー」


 そう言いゲンは、私の返事を聞かずに通話を切った。


「そんなに忙しいんだ……」


 自分の部屋に着いたので、中に入りすぐに風呂に入った。

 そして入浴後、疲れていたのか、そのままベッドに横になった。


---


 目を開けるとそこは、昨日見た夢の世界だった。

 だが、私が座っていた所は病室ではなく、喫茶店だった。


「あ! おはよう! ……ん? おやすみなさい? んー、まあそんな事どうでもいいわ」


 なぜか執事服を着た夢羽がバーカウンターテーブルの向こう側に立っており、何かを一生懸命振って作っている。

 そしてそれを、黒い影にしか見えないお客さんに渡していた。


「……夢羽、何やってるの?」

「見ての通り、喫茶店の店長やってるわ」

「店長なの!? あ、そうか!」

「え? 何に納得したのかしら?」

「夢羽、暇なのね!」

「そんな事ないわよ。あたしは、この輪廻の世界にいる邪気の相手をしないといけないの」

「え? なんで?」


 私の目の前にも飲み物が置かれたので、それを持ち上げる。


「邪気も魂の片割れだからね。相手してあげたら大人しくなるわよ」

「そうなんだ……それで、この材料の無い世界で、どうやって喫茶店とか作ったの?」


 とても綺麗に整頓されてて、清々しい気分になる。


「風羽が頑張ってくれたおかげだよ」

「え? 私が?」

「うん。夢の世界で配達頑張ってくれたでしょ。そのおかげで邪気が少しずつ減ってきてるの。それであたしも動けるようになったのよ。それで、創造してちょちょいと……」

「そうなんだ。それなら良かった」


 創造してちょちょいってのが意味わからなかったが、聞いても答えそうにないのでそのままカップに口をつけた。

 入れてくれた飲み物は紅茶だったようで、私が好きな甘さ加減だった。


「ふふふ……美味しいって顔してるね。好みもあたしに似ているのね」

「そうなんだ! あ、そういえば……デリケートな事だから聞きづらいけど……」

「うん、大丈夫よ。なーに?」


 私はカップをテーブルの上に置く。


「なんで私と夢羽は髪が長いの?」


 私は夢羽の顔を見て、そして髪を見た。


「あーそれねー……たしかに、何度か局員に呟かれていたね」

「うん……うん? なんでわかるの?」

「まあ、暇だからね。風羽の事は見ているわ」

「あ! 暇って言ったよ!」

「あ! 言っちゃったわ……てへ!」

「てへ、じゃないよ! ってことは、喋れたりするの?」

「んーどうだろうね? 風羽が1人だったら試してみてもいいわ。それより髪が長い理由よね」

「あ、そうだった」


 私は自身の髪と夢羽の髪を見る。


「うーん……いずれわかる時が来るわ」

「結局教えないのね」

「厳密には、教えることができないのよ……まだ多すぎるわ」


 もしかしたら邪気が多いせいで、色々と制限されているのかもしれないね。


「うん、わかったよ。時が来たら教えてね」

「うん。それでその髪だけど、こうすれば短髪に見えるわよ」


 夢羽は、私の頭をいじくり回し、そして1つのお団子を頭頂部に作り上げた。


「……なにこれ」

「お団子ヘアよ」

「……帽子被れないよ」

「それじゃ、こうやって……」


 夢羽がまた頭をいじくり回す。

 そして、


「今度は後頭部にお団子……でもこれ、帽子被れそうだね」

「そうでしょ。あたしも生前はこうして束ねていたんだよ」

「そうだったんだ」

「うん。その時に使っていたのがこれ」


 夢羽の手のひらに、1本の棒みたいな物が現れた。

 一方は尖ってて、もう一方には青い珠がついている。


「これは?」

「かんざしって言うの。この世界の人、髪を結んだり束ねたり切ったりすらしないから、こういう道具って無いのよね……」

「この世界の人?」

「ううん、何でもないよ」

「そう……それで、それはどうやって使うの?」


 私はかんざしを指す。


「そのお団子に横からせばいいよ」

「……こう?」

「そうそう。さすがはもう1人のあたし」


 そう言いながら夢羽は、1冊の本を取り出した。


「そういえば風羽にも相棒が出来たね」

「相棒?」

「うん、武器だよ」

「あー、あれね。なぜかしっくりくるんだよね」

「じゃあ、その相棒にこの子を乗せてあげて」


 本の中から、1つの火の玉が出てきた。


「え? それは?」

付喪神つくもがみだよ」

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