15 廃墟ビル探索

「わ! わわ! 落ちる? 落ちない!」


 ビルの入口に突っ込んだかと思いきや、なぜかビルの外壁を走っていた。

 砂サメも外壁を泳いでいる。


「さすが夢……何でもありだな……」


 ひたすら外壁を走っているが、目の前に走れる所がない。


「そろそろ屋上か!? いいのか!? そのまま真っ直ぐでいいのか!?」


 またハラハラしだすゲン。

 外で砂サメはキューキュー鳴いている。


「大丈夫。そのまま真っ直ぐだよ」

「もう途切れるぞ! 落ちるー! ……落ちないな」

「むしろ、景色が元に戻ったよ」


 ゲンはスピードを緩める。

 外でまた、砂サメがキュー! と鳴いている。

 どうやら、目の前の入り口から入るようだ。


「どうした? 何かあったか?」

「あれが入口みたい」

「屋上の出入口だな。なんでわざわざ屋上からなんだよ……」


 入り口の前で停まり、ドアを開けて外へと出た。


「結構な時間乗ってた気がする……ちょっと軽く食べるよ」


 私はそこらへんの地面に、シートを敷き、座ってサンドイッチを食べ始める。

 その側で、キューキューと鳴き始める砂サメ。


「はい、ここまで案内してくれてありがとね。干し肉しかないけど」


 1匹1枚ずつ干し肉を渡し、全ての砂サメに手持ち全ての干し肉をあげた。

 1匹3枚は貰えたようだ。すごく喜んでいる。


「ありがとねー!」


 そして砂サメは、来た道を引き返していった。


「ふう……外壁を走るなんて経験、初めてでドキドキしたわ……。あいつら帰っていったか……食われるかとヒヤヒヤしたぜ」


 ゲンもカバンからパンを取り出し、いつものように腹を開けてそこに放り込んでいる。


「さすがに食べられないでしょ、ロボットだし」

「そんなことない。ひと口でパクっといって、吐き出す場合もある」

「……経験した事あるの?」

「……夢でちょっとな」


 それはちょっとした恐怖体験だな……。

 ゲンは思い出したのか、青ざめている気がする。


「私がいるし、今後はそんな事起きないと思うから、大丈夫だよ」

「……本当か?」

「……たぶん」

「たぶん!? 怖いわ!」


 ゲンの反応を見て、私はくすくすと笑う。


「よし……食べ終わったし、中に入るよ」

「おっけー……」


 シートを片付け、屋上の入り口から中へと入り、階段を下りた。

 中は外より劣化が激しく、天井から外が見える所がいくつもあった。


「うわ……思った以上に朽ちてるな……歩いていたら崩れて落ちるってことも…………あるな! あぶねー!」


 キャタピラの足のロボットに変身したゲンは、私より先に進んでいる。

 ゲンが重いからかわからないが、ゲンの足元が崩れ落ちた。


「ドローンになった方がよくない? 私だったらそんなに重くないだろうし」

「我が重いだと?」

「……実際重いよね」

「……ああ、重いな」

「うん。じゃあ飛んで。このままだと私の足場が無くなる」


 私はニコニコしながらゲンを見る。


「その笑顔は怖いぜ……」


 そう言いながら、ゲンはドローンに変身する。


「それにしても、何もないな。このビル、元々何だったんだろうな」

「何だろうね? 夢の主の経験が元になるんだったら、オフィスビルとかその辺りじゃない?」


 部屋を覗き込むと、事務机が乱雑に置かれていた。


「何かがあったオフィスビルって感じだな」

「書棚の物も落ちてるからね……地震経験者なのかな……」

「ああ、現世の地面が揺れるやつか。あれの後、こっちも人が増えるんだよな……」

「そうなんだ……」

「自然災害とはいえ、辛いよな……我は経験したことないからわからないが、こっちに来る人達の絶望した顔は今でも覚えているな」


 ドローンの状態なのでどんな顔をしているかわからないが、暗い雰囲気になっているので悲しい顔をしているのだろう。


「うん……。うん? ねえゲン、あれって……あれだよね?」

「うん? あ!? 壺だと!?」


 オフィスの隅に、壺が1個置かれていた。


「あれって邪気が入っていた壺と一緒だよね……割ってもいい?」


 私は小銃を構える。


「……そうだな。中身は我が回収するから、思いっきり割ってくれ」

「はいよ!」


 私は小銃を構え、壺を目掛けて撃った。

 壺の中心に命中し、粉々に砕け散った。

 中から黒い水たまりのようなものが出てきて、それはすぐにゲンに捕らえられてしまった。


「次の部屋にもないか、見てみるね」

「ああ、頼む。我も、ムウが見ていない部屋を見てみる」


 私は、オフィスの中をくまなく探す。

 すると、


「うわ! ……部屋中に壺が置かれてる……これ全部壊すのめんどいから、手榴弾使ってもいい?」

「ああ。合流する」


 ベルトに括り付けていた手榴弾を取り出し、それのピンに指を引っ掛ける。


「おまたせ! やっていいぜ」


 ゲンの許可を貰ったので、ピンを抜いて部屋の中に放り込んだ。

 大きな爆発と共に、壺が割れる音がビル中に響き渡る。


「よし! これで吸い取って、次行くぞ次!」


 大きな掃除機に変身したゲンが一気に壺の破片と邪気を吸い取る。

 そして、回収し終えたゲンはドローンに戻り、また部屋から出ていった。

 私はまた別の部屋を見て回る。

 しかし、


「さっきので全部なのかな? 全然見つからないよ」

「こっちも1個もなかったぜ……。もしかしたら、さっきので全部かもしれん」


 ゲンが戻ってくる。

 私は自動小銃を肩にかけた。


「この階層は、あの部屋が最後だね……んーでも、夢の主もこの階層にいる感じがするんだよね……」

「うん? いつものか?」

「うん、勘ってやつかも」


 最後の部屋に近づく。

 そして、隠れながら中を確認する。

 特に目立った障害は無さそうだ。

 私は部屋の中に入った。


「うわ! びっくりした……。いつもの人ではないね……君達は一体……」


 入口からちょうど死角の位置に、少し歳を取った男の人が両脚をロープで縛られて座っている。


「わ! ……びっくりした! あ、今ロープ切りますね」


 私は男の人に駆け寄り、ロープを切断する。


「私は郵便局の者です。この宛名の方でよろしかったですか?」


 ロープを切り終え、夢の主と思われる男の人に手紙を見せる。


「ああ、俺の名前だ。今までに会ったことのある男の人達と同じ服を着ているようだが、本当に郵便局の人なのか?」

「はい、そうです。最近、局員に成りすまして悪さをする集団がいまして、私達も困ってるんですよ……」

「そうか。それは難儀だな……腕の方のロープもお願いしていいか?」


 どうやら腕も縛られていたようだ。

 そのロープをナイフで切り始める。


「もうちょいで……終わるからちょっと待ってね……よし、おっけー。はい」

「ああ、ありがとう」


 両手のロープを切ってあげると、夢の主は立ち上がった。


「はい、お手紙です」


 立ち上がった男の人に手紙を渡す。

 男の人は、その手紙を開いて読み始めた。


 すると、映像に女の人が出てきて、寝たきりの男の人を介抱している姿が映し出された。


 映像はそれだけだったようで、切手が剥がれて飛んできたのでキャッチした。


「ははは、妻からだ。やっぱり俺、寝たきりみたいだな。郵便局の人、ありがとうございます」


 男の人の目尻から一筋の涙が流れ、下に落ちる。

 すると、その落ちた所からどんどん緑が広がり、あっという間に砂漠が草原に変わっていった。

 遠くで泳いでいた砂ザメも、犬や人と思われるものに変わった。


「おお、変わったな」


 ゲンが外を見ている。


「すごーい! 緑になった!」

「これで一安心だな」

「うん。それでは失礼しますね」


 私とゲンは、男の人に手を振りその場を去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る