18 脱獄大作戦①
牢を出て数分。
そろそろバレて大騒ぎになるかと思いきやまだ大丈夫のようで、ゆっくり地下監獄を探索できそうだ。
「おい、そこの子」
牢の中から、男の人に話しかけられた。
私は周囲を確認した。
外にいるのは私以外の人はいないようだ。
「そこの君だよ」
「私ですか。
「そうかい。それで、君も局員か?」
薄暗い牢の中をよく見ると、星間郵便局の制服を着ていた。
男はどうやら局員のようだ。
「そうですけど……その制服、私を
「あ? なんで初めて会った君を欺く必要があるんだよ」
「んー……脱獄中だから、かな?」
男は目を丸くしている。
「ははははは! この牢を自力で逃げたか! 世の中にはすごい子どもがいるもんだな」
そして男は大声で笑った。
「何事だ!?」
兵士の足音が近づいてくる。
私はすぐに物陰に隠れる。
「気でも狂ったか、囚人B!」
「ははははは! いやー愉快愉快。思い出し笑いをしただけだ、失敬」
「思い出し笑いだと! ……以後気をつけろ!」
兵士は大きな足音を立てながら去っていった。
「危なかったですよ……」
「失敬失敬。それで、何を探しているんだ?」
私が何かを探しているように見えたようで、声をかけたようだ。
「顔に出てましたか……えっと、荷物はどこに保管されたかなって探しているところです」
「俺達の荷物か。どことまではわからんが、さっきの大荷物はもしかして君のか?」
「はい、そうですね」
男はまた目を丸くしている。
「そんなに小さい身体なのに、あんな大荷物渡されたのか。大変だな!」
男は私に、可哀想な者を見る目を向ける。
「いえ、あのリュックは拾った物です。ちゃんと身体に合ったカバンを支給されてますよ。今はリュックの中に入れてます」
「それならいい。あのリュックは、ここを真っ直ぐ歩いた所に持っていたぞ」
男は牢から腕を出し、道案内をしてくれた。
「ありがとう。ここを出る時にまた迎えに来ます」
「ああ、助かる」
そう言い、手を振り見送ってくれた。
---
男の言った通りに真っ直ぐ進むと、倉庫のような所があった。
しかし、ここも鍵がかかっていて開けられない。
「(見張りがいないのは幸いかな。これ開けられるかな?)」
「うーん……これならさっきと同じ感じにやればいいよ」
また団子ヘアからかんざしを抜き取り、ポケットからヘアピンを取って鍵穴に入れた。
「(今更だけど、このかんざし細い割には折れないよね)」
「うん、つくちゃんが1度憑いたからよ」
「(え? なんで憑いてたら折れないの?)」
「この子が憑いたら頑丈になるの。他にも色々あるけど、今はこれだけでいいわ」
「(……そうなんだね。あ、開いた)」
話しているうちに、鍵を開けてしまった。
「風羽すごいじゃない! もうプロね!」
「(ピッキングのプロにはなりたくないよ……)」
そう言いながらかんざしとヘアピンを元の場所に戻し、扉を開いて倉庫の中を確認した。
「行方不明者は5人で、捕らわれている局員は5人。一致しているね」
棚に無造作に置かれたカバンが5つある。
全て局員用のカバンで、そこまで大きい物ではない。
「うん。この大きさだったら、全部このリュックに入りそうだね」
片っ端から局員用のカバンをリュックに詰め込む。
すると
「う……重い……これじゃ担げない……」
荷物とカバンでパンパンになったリュックは、私の腕力で持ち上げることができず、引きずっている。
「(夢羽、この重たいリュックどうにかできない?)」
「それも、つくちゃんにお願いしちゃおうか」
「えっと……つくちゃん、このリュックに憑くことできる?」
再びかんざしを団子ヘアから抜き、話しかけてみた。
すると、かんざしから青い火の玉が出てきて、その場でくるくる踊った後、リュックを物色し始めた。
「(これ何やってるの?)」
「自分の住処に相応しいか、確認しているところだよ」
「(憑いているってことは、その物の中に住んでいるってことなんだね)」
「そういうこと。新品じゃなければ大丈夫だけどね」
「(新品じゃないと思うんだけど……)」
夢羽と話をしていると、リュックが気に入ったのか、すぐに入ってくれた。
するとなぜか、迷彩柄が青色の可愛らしい柄に変わっていた。
ポケットも増えていて、更に局員用カバンも同化され、一番手前の大きなポケットと化していた。
「(え? 作り変えちゃったよ……)」
「模様替えだろうね。これもつくちゃんの
「(す……すごい……)」
迷彩柄も目立ってて不満だったし、局員用のカバンを取り出してそこから手紙を取り出すという手間もあったから、リュックを手放して、別の局員用カバンを支給してもらおうかなって思ってたからすごく嬉しい!
「すごく嬉しそうだね。よかったわ」
「(うん、ありがとう!)」
何も考えずにリュックを持ち上げると
「あれ?」
さっきまで持ち上げることすらできないくらい重かったリュックが、ひょいと軽々に持てるようになっていた。
「(軽くなったんだけど、そんな機能まであるの?)」
「いや無いけど、さっきのかんざしと同じで強化されたのかも。憑いている時だけ軽くなるとか、そういった感じかな」
「(つくちゃん優秀すぎない?)」
「まあ、神様だしねー」
リュックを撫でてあげると、心なしか喜んでいる気がした。
「(そういう神様を扱う夢羽は、一体何者なんですかね?)」
「ふふふ……まだ秘密ー」
「まだ邪気が多いのか……」
リュックを背負い、扉から出ようとした。
その扉の前を、複数人の兵士が慌ただしく走っていった。
「(あ、もしかして気づかれたかな?)」
「……うん、風羽がいた牢に集まってるわ」
「(うわ……本格的にステルスゲーム開始かな)」
扉をゆっくりと閉め、さっきの男の人の牢まで戻った。
「お! そこの! すごい子!」
「いや私、ムウって名前があるのですが……」
「名前聞いてなかったな、失敬。俺はタツロウだ。それより、お! カバン見つかったようだな」
見つかったか聞こうとしたようだが、視線が大きなリュックに移っていたので気づいたようだ。
「はい。どれがタツロウさんのカバンかわからないですが、全部回収してきました」
「全部か! そのリュックに入ったのか!」
「まあ一応……」
「すごいな! それで、ここを脱出するんだな?」
私は牢の鍵にピッキングを試してみた。
扉より単純な構造をしており、すんなりと開けることができた。
「おお! 生前は鍵師だったのか?」
「いえ、ただの学生です。これは……趣味です」
「恐ろしい趣味だな!」
そう言っている横で、回収した局員用カバンを全て取り出した。
「ああ、これが俺のだ。このタグに局員番号が書かれているから、覚えておくといいぞ」
たしかに、全ての局員用カバンにタグがついている。
私のはリュックと同化したので、チャックのつまみにタグが括り付けられていた。
「そうなんだね。ありがとう」
「こちらこそ、ありがとな! 助けてくれたお礼と言っちゃ、あれなんだが」
タツロウはカバンのポケットから液体の入った瓶を取り出し、渡してきた。
「えっと……これは? 水ではないよね?」
「アルコールだ。それも高濃度のやつな」
「え? エタノールってこと? そんなの持ち歩いている人初めて見た……」
「役に立つから持っておきな」
エタノールの入った瓶を受け取った。
「う、うん、ありがとう……」
瓶を、リュックのサイドポケットに入れる。
「あと、これは救助証明兼謝礼だ」
そう言い、タツロウは1通の封筒を渡してきた。
「これって、ここの夢の主の手紙?」
「ああ、そうだ。配達予定の手紙を救助してくれた人に委託をすると、救助証明になる。そしてそれを配達すると、報酬が2倍になるという仕組みになっている」
「へえ、そんな仕組みもあるんだね。ありがとう」
封筒も受け取り、手紙用のポケットに入れた。
「こちらこそだ。じゃ、気をつけるんだぞ」
そう言って、タツロウはどこかへ走っていった。
「(出口はわかってるのかな?)」
「真っ直ぐ出口に向かってるね。たぶん、捕まった時に覚えたのかもね」
「(えー……すごい子すごい子って言ってたけど、自分もすごいじゃん……)」
私はタツロウが走っていった場所を見た。
「(さて……あと4人見つけて、最後に夢の主だね)」
「あたしの出番だ!」
「(うん、頼りにしてるからね)」
私は、まだ行ったことがない方向へと歩を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます