11 鏡の星

 手紙が手元に来る時間はいつもだとゆっくりだが、今回は明らかに速かった。

 速達という雰囲気を出している。


「この世界って速達ってあるの?」

「いや無いけど、噂だと早く持っていった方がいいと感じる物があるらしいぜ」

「なるほど……じゃあ、これがそうだ」

「なんだと! ダッシュボードに置け」


 私は手紙をダッシュボードのくぼみに置く。


「……近いな。飛ばすぞ」

「はい」

「着いたぞ」

「速いよ!」


 そう言うと同時に出発し、あっという間に着いた。

 目の前に、何かが反射してすごく眩しい星があった。

 水の反射とは違う気がする。


「降りるぞ」


 ゲンはそう言い、夢の星への降下を始めた。



---



 降下中に気づいたことは、雲1つ無いことと、所々に板のような物が浮いていることだ。

 あと、雲がないのに薄暗いことだ。


「この星、降りづらいな。あの板が邪魔だ。あと眩しいし」

「たぶん鏡かもね」

「鏡って、あの神社とかにまつられているあの板か?」

「そうだね。あれの大きい物だよ」


 たしかに、鏡らしい板を避けながら降下しているので、すごく面倒そうだ。

 少しして、ようやく地面に着地した。

 地面には草すら生えてなくて、至る所に鏡が浮いていたり刺さっていたりしている。


「やっぱり鏡だ」


 近くで刺さっている鏡を覗く。


「殺風景だな……深層の夢がこんなんだったら、やばいかもしれん」

「やばいというと?」

「病んでるかもな。下手したら死ぬかもしれん」

「それはまじでやばいやつじゃん! 急がないと!」

「ああ」


 私とゲンは夢の主を探すために、周囲を確認しながら歩いている。

 もしかしてと思い鏡に近づき覗いてみる。

 やはり、ただの鏡のようだ。


「あ! あれ、合わせ鏡だよ」

「合わせ鏡?」

「鏡と鏡が向き合って置かれると、合わせ鏡って言うんだ。心霊的スポットとかにあるやつ」

「置かれるとどうなるんだ?」

「見てごらん」


 私は合わせ鏡に近づき、覗き込む。

 ゲンも鏡を覗き込んだ。


「すげぇな。こんな感じになるのか……我がたくさんいるぞ」

「うん。んで、霊的な場所への入り口って言われてるんだけど……」


 私は鏡を触る。

 だが、そういった入り口的な現象は起きない。


「まあ、そう簡単に起きないよねー」

「ああ。先進むぞ」


 ゲンはどんどん前へ進む。


「待って! ちょっと小腹空いた……」

「ったく……夢の主が危ないって時に……」

「腹が減っては戦はできぬって言うじゃん」

「いや知らんがな」


 私はカバンの中から、軽食を取り出して食べ始めた。

 すると、目の前の鏡の中で小さい何かが動いているのを見つけた。


「ゲン!」

「なんだよ」

「あれ見て! ウサギがいる!」


 ウサギはどうやら、軽食の匂いに釣られて来たようだ。


「ウサギなんてどこにも……何であんな所にいる?」


 よく見ると、そのウサギは鏡の前にはいなく、中にしか映っていない。

 私は手に持っている軽食をすぐに口の中に入れ、そのウサギに近づこうとした。

 だが、


「あ、いなくなった!」

「追うぞ!」


 その鏡からいつの間にか姿を消した。


「あ! あれ!」


 鏡を覗き込むと、角度によって別の鏡が見えるようだ。

 その見える鏡の中に、歩いているウサギを見つけた。


「なるほどな……鏡から鏡に移る方法があるみたいだな」


 私達は、そのウサギを追うようについていった。


 しばらく歩くと、さっきより更に鏡が増え、迷路のような感じになってきた。

 ウサギを探すのもすごく大変になってきたが、何とか追いかけることができている。


「鏡が増えてきたね……夢の主に近づいている証拠?」

「わかってきたじゃないか……ウサギはどこ行った?」

「いたいた! ……またどっか行った」


 鏡の中にしかいないので、すぐに見失ってしまう。

 ウサギがいた鏡を映している鏡を探さないといけない。


「いたぞ! ……あいつ、こっち見てやがるぜ……」


 ゲンの言う通り、ウサギはこちらを見ている。

 からかっている様子はなく、追いかけてきているか確認しているようだった。


「悪意は無さそう。完全に見失ってないし、追いかけてきてほしいのかも」

「そうだといいが……」


 またしばらく追いかけていると、とても大きな鏡の前に出た。


「うわー……すごい……」

「でけーな……」


 私達は鏡を見上げる。

 そして、視線を下へと移した。

 するとそこに追いかけたウサギがいて、私達を見ている。


「……逃げないね。鏡に近づいてみるよ」

「ああ。気をつけろよ」


 そう言いながら、ゲンも一緒に鏡に近づく。


「ゲン! これ!」


 なぜか鏡の感触がなく、手が鏡の中に入った。


「ウサギさん、入ってほしいみたいだし、行ってみよう」

「あーこらこら! 確認しないで入るな! ったく……」


 鏡の中に入った私を追いかけるゲン。

 鏡の中と言っても、さっき居た所とほとんど同じで、反転しているのを確認できない。


「これ、鏡の中なんだよね?」

「そうだろうな。あれなんかわかりやすいんじゃないか?」


 ゲンが地面を指す。

 そこには、私とゲンの足跡が残されていた。

 意識していなかったが、地面の土質は、土より砂に近いのかもしれない。


「来た道を引き返しているだけじゃないの?」

「いや、模様が逆さになっているな。局員の靴の模様は俺がデザインしたからな」

「え? 意外だ……」

「意外って言うな。開発当時はそれほど人口がいなかったから、死亡者も少なかったんだよ」

「あー……なるほどね」


 と、話していると、ウサギが鏡の後ろから顔を覗かせた。


「おいお前、夢の主がどこにいるか知っているのか?」


 ゲンがウサギに話しかける。

 ウサギは首を傾げ、そして奥へと走る。


「あのやろ……」

「いやウサギに怒らないでよ。人語を把握していないだけでしょ」

「ぐぬぬ……」


 ウサギの足跡もしっかり残っているので、もし見失っても追いかけられそうだ。


 鏡の中でウサギを追いかけていると、


「うわ……こんなに目立つ物は無かったわ……」

「あったらすぐにそこに降りるしな。てか、これなんだ?」

「階段? 迷宮?」

「紛らわしいから階段迷宮でいい……」


 ウサギはどんどん階段を進んでいる。


「ここに入るみたいよ」

「そうみたいだな……我は上るのがめんどいから飛ぶぞ」


 そう言い、ゲンはドローンに変身した。


「よし。じゃあ追いかけるよ」

「はいよー」


 ゲンの返事を聞き、私は階段を上り始めた。

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