10 リゾートホテルでの攻防③

「お前ら、僕のホテルに何の用だ!」


 声が、男か女かわからない中性な感じだ。

 まだ性が変わっていないってことは、未婚か子がいないかのどちらかだろう。


「星間郵便局の者です。夢の主にお手紙を持ってきました」

「そんなの嘘に決まってる! 僕なんかに手紙を送る人なんていないんだから!」


 主と思われる人は、私達に向かって叫んだ。

 すると巨人も大きく吠え、そして


「どわ! 何か飛んできた!?」

「椅子だな……ムウ、周りを見てみろ」

「……あれ?」


 周囲を見渡すと、何もなかったフロアにテーブルや椅子がたくさん配置されていた。

 夢の主が降りてきたから、このフロアに影響した?


「やれー! やっちまえー! 嘘つきは制裁だー!」

「ゲンどうする!?」

「とりあえず目の前の障害をどうにかしないとな……」


 ゲンはドローンの姿に変身する。

 そして、ミニガンで牽制けんせいしようとした。


「うん? 弾切れか!」

「肝心な時に!?」


 ゲンはドローンから人型に戻った。


「うおおおおお! 人間!」

「やっちゃえー!!」


 巨人の雄叫びと後方の夢の主の声援。


「ムウ……手持ちの武器を使う時がきたようだな」

「え? 私ド素人なんだけど?」

「さっき命中させてたじゃん。ド素人は一発で命中させないわ」

「だから、あれはまぐれだって……うわ!?」


 テーブルを寝かせて盾にしていたが、そこに同じテーブルを投げられ、破壊された。


「しょうがない……ごちゃごちゃ言う前に試す!」


 私はスコープを覗きながら右後ろへと下がり、巨人の腕を狙った。

 巨人は私の狙撃を阻止しようと、椅子を持ち上げる。


「今!」


 私は上げた腕を狙い、そして命中させた。


「ぐお! 人間!」


 巨人は椅子から手を離し、自分の頭に落とした。

 その衝撃のせいか、棒立ちのまま動かない。


「何か良さげな武器は……使えそうなの手榴弾しかない!」

「それでいいじゃないか。今投げちゃおうぜ」

「あ、チャンスか」


 私は手榴弾のピンを抜き、巨人に向かって放り投げた。

 手榴弾は弧を描いて飛び、巨人の身体に当たった。


「ぐおおおおお……人間!」


 巨人は床に片膝をつく。


「よし今だ!」

「主さん!」

「ひぃ! 来るんじゃない!!」


 走って近づいたのが裏目に出たのか、夢の主はまた上階へと逃げてしまった。


「……逃げられた」

「上に逃げたのは確かだから、後で追いかけようか。それより、この巨人をどうにかしないと、また上でも出てくるぜ」

「どうにかって何をすればいいのさ」

「んー……倒してもダメ。落としてもダメ……。となると残るは……」

「捕まえる?」

「それだ!」


 ゲンが私に向けてサムズアップする。


「たしかこのボディには、標準装備で漁網ぎょもうがあったんだよな」

「なんでそんなのが標準装備なのさ……」

「漁網ってデカいだろ? 何でも捕獲できるから入れておけって設定した気がするぜ」

「設定なのね……あ、そろそろ動きそう!」


 話している間に、巨人の傷が塞がってきた。


「よし……これでも被ってろ!」


 ゲンは上から網をかける。


「……人間!」


 巨人は網から抜けようともが

 だが、踠けば踠くほど絡まっていく。


「よし! 上に行くぞ」

「りょーかい!」


 夢の主が逃げた、開きっぱなしになっている扉へと走る。

 すると


「うん? 後ろが騒がしい気がするな」

「そう? 何も聞こえないけど……」


 ゲンは後ろを気にしているが、私には何も聞こえない。


「そうか……まあ、急ぐぞ」


 扉を抜け、階段を駆け上がる。

 そして


「15階にいたはずなのに、一気に20階に上がったね……」

「重要な階に飛ばされているってことだな。それで最上階なんだが……」

「うん、あっちにいるね」


 私は奥の玉座のような椅子を指す。

 そこには、先程の夢の主がふんぞり返っていた。

 部屋の中も、ホテルと言われてもわからないほど綺羅きらびやかで、床にはレッドカーペット、装飾には金や銀などが使われていた。


「……夢だからってやりたい放題だな」

「現実では経験できないからね」


 夢の主をチラチラと見ながらゲンと話していると、主が玉座から立ち上がり、こちらに近づいてきた。


「人が何もしてこないからってぬけぬけと……! ポセイドンはどこだ! 恥知らず共が玉座の間に来ているぞ!」


 主は大声で誰かを呼んでいるが、誰も答えてくれない。


「もしかしてあの巨人の事を言っているのか? 海の神の名を使うとは……これまた大物だな」

「え? 実在するの?」

「ああ。いると思えば存在し、いないと思えば存在しない」

「なんか難しい話になってきたな……」


 私がゲンと話をしていると、夢の主が更に寄ってきた。


「どうやらポセイドンを倒したようだな……」


 夢の主は、私が持っている自動小銃と同じ物を取り出した。

 そして


「ヒヒヒ!」


 威圧射撃なのかトリガーハッピーなのかわからないが、あらゆる方向に乱射している。


「あれ、どうしたらいいの?」

「錯乱しているな……。とりあえず、落ち着くまで撃たせておけ。ムウは移動してあおっているといいぞ。威嚇いかく射撃もOKだ」

「要するに、弾を当てずに戦えってことね。わかったわ」


 ゲンの無茶振りに了承し、私は蜂の巣になった柱から別のへと移動した。

 その際、相手の近くに自動小銃を撃ち込む。


「ひぃ! 撃ってきた! あの嘘つき、銃を使うぞ!」


 そう言って主は別のマガジンに入れ替え、今度はちゃんと私に向かって撃ってきた。


「おっと、狙ってきたな。ちょっと落ち着いてきたかな?」

「落ち着いてる? まだ撃ってきてるよ」

「ああ、まだだ。もっと威圧しろ」

「えー……」


 拳銃でまた男の近くに撃ち、空になったマガジンをリュックの中に入れて新しい物を入れた。

 よく見ると、まだ穴の開いていない柱が近くにない。


「ヒヒヒ! 追い詰めたぁ!」


 そう言い、私達が隠れている柱に目掛けて撃ちまくった。


「ゲン!」


 私は端末でとある乗り物を表示させ、それをゲンに見せた。


「……! はいよ!」


 ゲンはそれに変身し、私はその中に入った。


「ひぃ! それは反則だ!」


 主の乱射は止まらないが、私がゲンに見せたには全て無意味だ。


「すげーなこれは。だけどこれは相当疲れるな。今回だけだぞ」

「わかってるよ。今度はもうちょっとマシな物お願いするよ」

「なんだよ、もうちょっとマシって……ったく」


 ゲンは砲身を主の近くの床に向ける。

 そして、それを主から離れた位置の床に撃ち放った。


「ひぃ! お助け!」

「はいはい、おしまい。落ち着いた?」


 私は戦車から降りて、夢の主と同じ目線で話をした。


「……はい」

「じゃあこれ、お手紙です」

「本当に僕宛て? 僕に送る人なんていない」

「いやこれ、主さんにでしょ。はいどうぞ」


 主に無理やり手紙を押し付けた。


「あ! 父と母だったか!」


 主は手紙を開ける。

 すると、会社で上手くいっていない主の姿が映し出され、次にご両親が出てくる。

 そして、一緒に畑仕事をしている姿が映し出された。


「ああ……何も無いと思っていたが、実家に戻って農業でも一緒にやろうかな」


 主は目をつむり、手紙を胸に抱く。

 すると、手紙から切手が剥がれ、私の所に飛んできた。

 私はそれを受け取る。


「配達はこれで終わりね。もう少し、郵便屋さんが配達しやすいゲームにしなさいよ」

「嫌だね。この世界の王は僕だ。奴らを使って世界征服するまで帰らんぞ」


 主は首を背ける。


「それじゃ、私はこのへんで」


 クルマに変わってもらったゲンに乗り、宙に浮く。


「あ! やっぱり気のせいではないぜ。あれを見てみろ」


 階段の方から、たくさんの狂人が押し寄せてきた。


「ひぃ! やめろ! 僕はこの世界の王なんだぞ! うわぁぁああ!!!」


 狂人に囲まれた主は、あっという間に消えてしまった。



---



「あれ? もう外にいる」

「知らずに戦車で煽ったのか?」

「え?」

「夢だからな。怖いシーンとか見たら、びっくりして起きるだろ?」

「あ、そうか!」

「起きたら夢の星から追い出されるぜ」

「なるほど……」


 私はカバンの中に手を入れる。


「次はどこかな?」


 するとすぐに、1通の手紙が手のひらに吸い寄せられた。

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