12 鏡の中の階段迷宮

 ウサギを追いかけるために階段迷宮に踏み込んだ私達は、


「ウサギさん見失ったじゃん。ゲンが落ちるから……」

「落ちてないわ!」


 早速ウサギを見失っていた。


---


 時はさかのぼり、階段迷宮に入った頃。

 階段を上っていると、隣にいたゲンが突然消えた。

 どこに行ったと探していたら、階段上った先に大広間にゲンがいた。


「なんで我はこんな所に飛ばされたんだ?」

「何か特別な事した?」

「飛んでいる以外何もしてないぞ」

「飛んだらダメってことかな?」

「それだったら、途中まで飛んでいても問題なかった理由がわからん」

「んー……」


 私は階段を下り、屈んで何かないか確認した。


「そういえばこの階段、手すりとか無いし、落ちそうだよね。ゲン、階段からはみ出てみて」

「そなたは我に落ちろと言うか」

「飛んでるし落ちないでしょ」

「……」


 ゲンは階段に近づき、そして階段外にはみ出した。


「ほれ、はみ出した……あれ?」

「ほらやっぱり。そこの広間がセーブポイントみたいになっているんだよ」

「セーブポイント?」

「復活地点みたいなものだね」

「なるほど……じゃあ我は、階段からはみ出ただけで死亡した扱いされているってことか」

「そうかもね。はみ出ずにウサギさん追いかけないとね……あれ? ウサギさんは?」


---


 という感じに、ゲンとやり取りをしていると見失っていた。


「あ! あれ! ウサギじゃね?」

「どれどれ? あ! いたいた! って、あそこにどうやって行くわけ?」

「知らん。飛んで行けば一発よ」


 そう言いゲンは、ウサギの元へ飛んで行こうとする。


「あれ?」


 しかし、さっきと同じように、同じ所に戻されてしまう。


「床や階段が無い所には入れないってことかな」

「それしか考えられないな。じゃあ、あれは追いかけるしかない」

「そうだね。それにしても、選択肢が多すぎる……」


 広間から出ている階段がいくつもあり、迷子は必然と言える程だ。


「じゃあ、こいつらの出番だな」

「うん?」


 ゲンは人型に戻り、そして腹の扉を開けた。

 そこから、たくさんの小型ロボットが飛び出してきた。


「わわわ!!! うじゃうじゃ!!」

「うじゃうじゃ言うな。こいつら優秀なんだぞ? 尾行、偵察はお手の物。んで、こんな見た目してるが、力持ちだ」

「へえ……あ、そういうことね」

「お? わかったのか?」

「この子達に2つ以外行かせるってことね」

「その通りだ! ……2つ以外?」

「もちろん、私とゲンも別れて行動だよ」

「えー……」


 ゲンはすごく嫌そうな顔をしている。


「嫌そうな顔しない。はい、配置して! はい、私達も階段の前に立つ!」

「……りょーかい」


 私に言われるがまま、ゲンは1つの階段の前に立った。


「飛んでもいいか?」

「はみ出なければいいよ」

「……りょーかい」


 そう言い、再びドローンに変わる。


「はい、行くよー! ゴーゴー!」

「何でそんなにテンション高いんだよ……」

「ウサギさん追いかけないと、夢の主が危ないんでしょ? 急いで!」

「さっきまではな。この迷宮見て意見が変わった」

「え? 危ないんじゃないの?」

「危ないことには変わりない。だが、まだ心残りがある状況だ。この迷宮がスッキリすると更に危ない状況になる」

「どっちみち危ないのは変わりないし、急ぐ急ぐ!」


 私は階段を下りる。


「はいよー」


 ゲンは階段を上り始めた。

 そして、ゲンもそれぞれ階段を進み始めた。


「通信機は良好だな。遠ざかっているわけではないな」

「そうみたいだね。あ! 小ゲンがいる! 逆さになっているよ。落ちてこないかな?」

「こっちからムウを見たら、そっちが逆さになってるぜ」

「へえ、面白ーい! ジャンプしたら上に落ちるかな?」


 私はその場で飛び跳ねてみたが、上に飛んでいくことはなかった。


「あ! ウサギちゃん! そっちにいるよ! 小ゲンの所!」

「ああ、見えてるよ。じゃあ、我々も合流するために、一旦広間に戻るぜ」

「おっけー……戻ったよ」


 階段から足を出すと、一気に広間に戻された。

 どうやら、落ちなくても戻されるようだ。


「どっちの階段?」

「そこの階段だ」


 ゲンが指した階段を下り始める。

 ひたすら下りていくと、小ゲンがウサギを捕まえていた。


「追いかけるだけでよかったんだけど……」

「そしたら我々が追いつけなかったからな。一旦止まってもらった」

「強引だな……。もう放してあげて」


 小ゲンはウサギを放した。

 すると、


「あ、ほら! また逃げたぜ。急いで追いかけないと!」

「捕まえられたらそりゃ逃げるよ……。階段から出ないように注意してね」


 ウサギを追いかけて上ったり下りたり。

 ひたすら階段を上下すること数分。


「も……もう……疲れた……んだけど……」

「我もカロリーが切れそうだ。そろそろ休憩を入れておきたいが、階段以外に休める所ないのか?」


 ウサギを追いかける足が鈍くなってきている。

 ウサギが私達を見た後、辺りを見渡し、また階段を上り始めた。


「えー……周りを見たから休憩所探したと思ったのにー……」


 そう言いながら追いかけていくと、


「あ、止まった! あれ? そこは道じゃないよ!」


 ウサギは階段から出て、道無き道を進み始めた。

 私はおそるおそる、ウサギの通った道無き道に足を出す。

 すると、


「お? おお!!」


 足を置いた所からあっという間の早さで床が光り、見えなかった道が見えるようになった。


「この先に休憩所があるのかな?」

「こんな不思議な所、行く以外の選択肢はないな」


 ゲンも光る床に足を伸ばす。

 ひたすら進んでいると、ベンチのように配置された木材と、テーブルが置かれていた。

 私はカバンをテーブルの上に置く。


「やっと休めるぜ……」


 ゲンは腹を開け、小ゲンを入れた後に、今度は食べ物とか飲み物を包み紙やボトルごと腹に入れ始めた。


「ほんと、奇妙な食べ方するよね……」

「奇妙って言うな」


 私も軽食と水を飲み、カバンの中に戻した。

 ウサギはその間、大人しく待っている。

 しばらくするとウサギが動き始めたので、私達もカバンを持ち直し、追跡を再開した。


 またしばらくウサギを追いかけていると、入ってきた鏡と同じくらいの鏡に辿り着いた。


「ここに入れってことなのかな?」

「さあな。ウサギがここから動かないってことは、そうかもしれんな」


 私は入った時と同じように鏡に手を突こうとしたが、またすり抜けてしまった。


「ここが出口かもしれんな。何のために迷宮に入ったんだ……」


 後ろでゲンが呟いているが、そのまま私は鏡を抜けた。


「……え?」


 そして振り返ると、ゲンの横に椅子に座った女の人がいた。

 ウサギはその女の人の膝の上に座った。

 ゲンも鏡の外に出て、ぎょっとしている。


「あ……」


 鏡の中の女の人は私を見て声を漏らした。

 声が聞こえたので会話は可能のようだ。


「こんにちは。星間郵便局です。貴方はこの宛先の方ですか?」

「はい……私です……」


 すごく物静かな人のようだ。

 私は鏡に近づき手紙を渡そうとする。しかし、


「渡せそうにないです……。鏡の中から出ることはできますか?」


 なぜか、入れなくなっていた。なので、逆に出られるか聞いてみた。


「………」


 それを聞き、彼女は鏡に向かって手を伸ばしてきた。

 そして、鏡の表面にピタっと止まった。

 どうやら出せないようだ。

 私はその手に当たるように手紙を鏡にくっつけた。

 すると、


「あ、入っていく!」


 鏡の中に吸い込まれていくような感じに入っていき、彼女の手のひらの上に落ちた。


「……いいのですか?」

「はい。貴方宛ですから開けていいですよ」


 それを聞き、彼女は封を切った。

 その瞬間、頭の中に映像が流れ込んだ。


 子を授かった時の幸せそうな場面。

 子が突然お腹の中で亡くなり、自身も寝込んでしまう場面。

 そして、旦那と思われる男の人に、ベッドの横で手を握られている場面。


 最後のシーンが流れた後、夢の主の目元から涙の粒が次から次へと流れ始めた。

 するとその時、封筒から光が漏れ出て、手紙が光り出した。

 そして、星全体も空から光が差し、徐々に明るくなってきた。


「お? おお?」


 ゲンはキョロキョロしている。

 手紙から切手が剥がれ、飛んできたのを私は取る。


 すると手紙が突然男の人になり、そして鏡が割れた。

 周囲の鏡も割れ、破片がキラキラと舞い落ちる。


「うわ! やばいやばい!」


 ゲンは破片を回避するために、装甲車そうこうしゃに変身した。

 私もゲンに乗り込み、破片に刺さらないように回避する。


「え? どういうこと? 失敗した?」

「いや、大丈夫だろう。これから、この夢の主の深層の夢はもっと綺麗になるはずだ。ほれ」


 破片が全て降り終わると、地面に落ちた破片が全て砂に変わり、そして大海原が奥から押し寄せてきた。

 そして、あっという間に海岸になった。


「うわ! すごーい! こんなに変わるんだ!」

「だろ? さっきの殺風景な夢の方が異常なんだ」


 鏡が割れて自由になった夢の主も、椅子から立ち上がり海岸を歩いている。


「じゃ、ここでの仕事は終わりだね! 主さん、お幸せにね!」


 私は窓から顔を出し、夢の主に手を振った。

 夢の主は頭を下げ、そして手を振ってくれた。


「よし、ゲン行くよ」

「あいよー」

「さて、次はどこかなー?」


 ゲンが空へ上昇し始めた。

 私はその間に次の配達先を待つことにした。

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