第4話

 3月12日

 久しぶりにステータスを確認すると、レベルが上がっていた。

 それも二つも上がっていたのだ。

 15レベルを超えたあたりからかなりレベルの上りが悪かったが、あの竜みたいなやつは相当に経験値的なものがおいしかったのだろう。


 名前:枢木祐樹

 Lv:19    

力:310  速さ:380  持久力:220  魔力:280 

 スキル:召喚『ソード』Lv30 操剣lv1 魔力回復速度UPlv4 強肉弱食lv???


 依然と比べれば雲泥の差だが、これが強いのかどうかは分からない。

 上十さんも似たようなことが出来ていたから、弱くはないといった所だろうか。

 こんな世界だ。

 強くて困ることはない。

 スキルに関しては、ソードはかなりレベルが上がって、今では4本くらい同時に召喚する事が出来る。

 使えるのは一本だが。

 剣自体の質も高くなっており、レベルが上がればその分強くなるのだろう。

 相変わらず謎の仕組みだが。


 操剣に関しては、これは呼び出した剣を触れずに操る事が出来る。

 具体的には3メートル範囲にある、俺の呼び出した剣に限ればほんの少し俺側へ引き寄せる事が出来る。

 今のところそれ以外は出来ない。

 つまり役に立たない。


 最後のスキルはなんだろうか。

 分からないので放置だ。

 字面から何となく分からないでもないが、今は気にしないでいる。



 3月15日

 今日生き残りを見つけた。

 というか襲われた。

 8人相当でバイクに乗っており、歩いていた俺に身包みを置いていけと言ってきたのだ。

 何だか感動すら覚えた。

 人間ってこんな世の中になってもしぶといんだな。


 まぁ覚醒もしていないようで、レベルが上がっている俺には8人がかりだろうと相手にならなかった。

 生き残っているのが奇跡じゃないだろか。

 

 とりあえず身包みを逆に剥いで使えそうなものを回収、他バイク等は遠くに放り投げておいた。

 最後は俺を怪物だと勘違いして逃げて行った。

 まぁ特に必要なものはなかった。


 

 俺って銃とかも効かないんだな。



 3月16日

 また違う町に着いた。

 だがここには生き残りはおらず、他の町よりも酷い有様だった。

 久しぶりにゴブリンを見かけたので見つけ次第皆殺しにした。

 他にも人型の巨大な豚、オークとでも呼ぶべき怪物がいた。

 一瞬、焼けば豚肉になるかなと思ってしまったが、体を切り裂くと思ったよりも人間よりで嫌な気持になったのでやめておくことにする。


 でも旨そうなんだよな……。

 

 3月17日

 襲い来る怪物に対処しつつ、俺はこの町を後にする。

 怪物が至る所にいたが、それほど苦戦する相手はいなかった。


 3月22日

 更に移動すると、いつの間にか違う県に着いていたらしい。

 他と変わらず、ここも建物という建物が崩壊しており、人間が住んでいる痕跡がない。

 高い場所へ移って上から様子を見てみたが、町の中心が大きなクレーターになっていた。



 4月1日

 人に出会えないことが多い。

 代わりに、怪物の数がやたらと多くなっている。

 怪物に関しても、移動すれば移動するほどに、複数の種類の怪物が固まっているのが分かった。

 俺が見た限り、怪物同士は争いが多く、違い種同士で固まることは少ない。

 だというのに集まっているということは、それを纏める何かがいるのではないだろうか。

 憶測にすぎないが、警戒は強めることにする。


 4月3日

 俺の予想は的中した。

 かなり遠めだが、他の怪物に頭を下げられている怪物を見つけたのだ。

 そいつは人間よりの見た目をしていたが、翼と角があるので人間ではないのだろう。

 見た目から魔人と呼ぶことにした。

 それと人間も見つけた。

 どうやら捕まっているらしく、檻に入っていたり、何かしらの労働をさせられているのが見えた。


 かなり知能が高いのだろう。

 下手に手出しせずに様子を見るべきか?


 4月4日

 正攻法では厳しいと判断し、俺は周囲の怪物を徐々に減らす作戦に出た。

 ゴブリンやオーク程度なら問題ないが、オーガが3体同時に出たときはヤバかった。

 どうにかする事が出来たが、見通しが甘かったと自覚した。


 4月6日

 魔人のいる場所へ徐々に範囲を狭めながら怪物を狩っていると、戦闘音が聞こえてきたので寄ってみるとそこに生き残りがいた。

 怪物と戦っていたらしく銃を撃っていた。

 怪物に銃は効かないのではと思っていたが、どうやら効果があるらしく頭部に弾丸を受けた怪物が倒れていた。

 危ない場面で手助けすると、どこから来たのやら何をしているのやら質問攻めにあった。

 諸々の説明を終えると、目的が同じだったので協力することになった。


 彼らはレジスタンスらしい。


 4月7日

 彼らは町の地下鉄を拠点としていたらしい。

 俺が助けた時は物資を集めている最中だったらしく、普段は怪物がいない場所に怪物が集まっていて驚いたと言っていた。

 多分俺が周囲の怪物を狩りつくしていたから寄ってきたのかもしれない。

 とりあえず謝っておいた。


 レジスタンスを名乗る彼らは、この町を魔人から解放するべく戦っているらしい。

 魔人は他の怪物とは一線を画すらしく、今までも多くの人間がやられたらしい。

 覚醒者も何人もいたが、魔人と戦ってほとんどが死んだのだという。

 拠点の中は10人もおらず、覚醒者は3人程度だった。

 

 レジスタンスのリーダーから話を聞けば、都市部に近づくにつれ怪物は力を増し、魔人も増えるのだという。

 あの魔人を倒さなければ人類の復興はない、と熱く語られてしまった。

 


 4月8日

 レジスタンスの一員である遠山さんという方にステータスを見せてもらった。

 彼はレベルが46もあった。

 だがステータスは俺の半分程度だった。

 どうやら俺のレベルは低いだけで、ステータスは高いらしい。

 俺も一々気にしてはいなかったが、多分あの強肉弱食というステータスが関係しているのだろう。

 俺のステータスを教えるとかなり驚いていた。

 俺がいれば魔人に勝てると勇んでいた。



 4月9日

 俺はレジスタンスに交じり怪物を倒しながら、自分のスキルを育てることにした。

 スキルは使えば使う程に上がっていく。

 今の俺に上げれるスキルは召喚と操剣だ。

 戦い方を少し変え、できるだけ操剣を使えるようにした。


 と言っても最初は落ちてる剣が俺の方に少し近づく程度。

 育ったところで役に立つかも分からないが、やるしかないと色々試す。


 4月13日

 レジスタンスに交じって数日が経過した。

 かなり怪物の数が減ったという所で、レジスタンスの拠点が襲われた。

 オーガ6体にオークが30体。

 あとは小さいのが数十体。

 オーガも雷を纏っていたり他のより大きい奴がいたりとかなりの混戦になった。

 俺も戦いに交じり殲滅したが、こちらの被害もそれなりに出た。


 ここらで決着をつけなければ、次はないだろう。

 ただ俺もレベルが一つ上がって、操剣のレベルが15になった事だろう。

 操剣も今は俺から3メートル範囲であれば自由に動かす事が出来るレベルになっている。

 使い道があって良かった。



 ――――


 生憎の雨模様の中、素早く駆ける祐樹に続き遠山、一条、大原という名の覚醒者3名も続く。

 先日の襲撃により拠点は壊滅、臨時とした拠点も安全とは言えず、非戦闘員を置いての総出で魔人の討伐へと向かっていた。

 道中も怪物たちはいたが、戦闘を走る祐樹が素早く始末し、スピードを緩める事無く目的地へと向かう。


「凄いな、彼は」


 戦闘を走る祐樹、その後ろを3人が固まる形をとる。

 これは祐樹を前に出しているわけではなく、祐樹の速度に彼らが追い付けないのが原因だった。


「えぇ、俺たちも“覚醒者”ってやつらしいですけど、どうやっても彼には勝てそうにないです」


 彼らは怪物に襲われ負傷、その後生き延びた事で力を得る事が出来るようになった、いわゆる覚醒者だ。

 幾度も怪物と戦い、一度は魔人とも戦っている。

 結果は惨敗し命からがら生き延びたが、戦意は失っていなかった。

 ここにきて祐樹の登場は、彼らからすれば天の采配のようにも思えた。


「だが、この町は私たちの町だ。彼一人に重荷を背負わせるわけにはいかない」

「はい」


 レジスタンスのリーダーでもある一条の言葉に、残りの二人も応える。

 数回の戦闘の後、祐樹がぴたりと止まった。


「どうした?」


 少し息を荒げながら、一条が祐樹に訊ねる。

 祐樹は、雨が降りしきる空を見上げて、口を開いた。


「――来ます」


 祐樹の言葉が3人の耳に届いた瞬間、空から凄まじい勢いで何かが降ってきた。

 すぐにその正体には気づいた。


 ――魔人だ。


『貴様らが、わたしの部下を殺しまわっていただな。家畜の分際でふざけたことを……』


 魔人が口を開く。

 それは明らかに日本語ではなかったが、彼らの耳には意味の分かる言葉として響いた。


「言葉が通じるのか? だったら幾つか聞きたい事がある」


 一条たち3人がかつての戦いを思い出し、魔人に恐れを抱く中祐樹が物怖じせずに魔人に問いかけた。


『家畜ごときが質問だと? ふざけるな!!』


 瞬間、魔人の体から何かが噴き出す。

 それは天高く昇り、彼らの上空にある雨雲を吹き飛ばした。


『貴様らはオーク共の餌にしてやる。さぁ、さっさとくたばれ!』


 魔人の体がぶれるように消える。

 その次の瞬間、祐樹は剣を、魔人は腕を合わせていた。

 その衝撃は3人を少し後方へ飛ばすほど激しいものだった。


「――俺たちも加勢するぞ!」


 いち早く復帰した一条がスキルを発動させる。

 一条のスキルは弓を召喚する。

 その弓から放たれる矢には様々な現象を付加する事が出来、矢は違うスキルにより生成可能だ。

 ただし矢の生成には魔力を使うので継続的な戦闘には不向きだ。


「っ! 分かりました」


 続けて大原がスキルを発動させる。

 大原のスキルは巨大な盾を召喚する事が出来る。

 受けの性能に特化しており、大原は今の一瞬、自分が祐樹と魔人の間に入って攻撃を受け止めれなかった事を恥じた。


「もちろんです」


 最後に遠山がスキルを発動させる。

 遠山のスキルは銃。

 やや近未来的なデザインの銃を召喚し、弾丸には魔力を必要としている。

 発砲音が大きく弾丸も小さいため大きい敵には不利な事が多く、弾速もそれほど早いわけではない。

 だが一条と同じく弾丸に付加を与える事で着弾地点を凍らせたり、燃やしたりも出来る。

 ただ規模が小さい上に消費も激しく、滅多に使えるものではなかった。


「合わせます! 好きに攻撃してください!」


 魔人の攻撃を受け止めた祐樹が、3人の動きを確認して声を出す。


『一度受け止めたぐらいで調子に乗るな!!」


 魔人が祐樹の剣を掴み、動かないように固定する。

 そして蹴りを放つ。


「がっ?!」


 内臓を貫かれたかと錯覚するほどの衝撃に、祐樹の体は直線状に家数件を貫通する勢いで吹き飛ぶ。


「枢木くん?!」

「このっ!」


 一条が矢を放ち、大原が前に出る。

 遠山は魔人の背後に回りながら射撃を開始する。


『この家畜どもが!』


 魔人は飛んできた矢を掴み、後方へ回ろうとした遠山へ投げつけ、迫ってくる大盾を持った大原に向かって拳を振るう。


「ぐああっ!」

「ぎゃああああ!!」


 遠山の腹部に一条の矢が刺さり、大原の体は盾ごと吹き飛ぶ。

 その一撃で大原の大盾は粉々に砕け散っていた。


「はああああ!!」


 しかしそこに、魔人に上空から襲う者がいた。

 それは吹き飛ばされたはずの祐樹だった。


『生きていたのか』

「死ぬかと思ったがな!」


 祐樹は吹き飛ばされた後に家の屋根伝いに戻り、魔人に襲い掛かってきたのだ。

 だが先ほどの一撃は確実に祐樹にダメージを与えていた。

 しかしこの上空からの急襲、魔人に腕で受け止められたが見れば魔人の腕に少し食い込んでおり、魔人側も無傷というわけではなかった。


『ほう、家畜の分際でわたしに傷をつけるとはな」


 魔人が腕を振るい、祐樹を追い払う。

 祐樹は乱れた息を正しながら剣を構えるが、すぐにその剣を捨てた。

 しかし諦めたわけではなく、すぐさま新たに剣を召喚する。


『その力はなんだ? なぜ貴様らがその力を有している?』

「知るかよ!」


 祐樹が再び魔人に襲い掛かる。

 魔人は祐樹の剣を腕でガードし、数度の打ち合いになるが今度は魔人が後ろへ飛ぶように下がった。

 見れば数度の打ち合いで魔人の腕は傷だらけになっており、魔人は物珍しそうに自らの腕を眺めていた。


『貴様、勇者の末裔か?』


 魔人の言葉に、祐樹は思わず吹き出す。


「なわけねえだろ。そんなやつこの世界にはいないんだよ」

『ならばなぜわたしの体にこれほどの傷をつけられる……、。どちらにせよ構わぬ。いいだろう貴様らをオークの餌にするのはやめだ。――光栄に思うがいい。貴様らごときが、魔族の秘宝を目にする栄誉を手にしたのだ』


 魔人が自らの胸に腕を突っ込む。

 その行動に驚いたが、当然自殺ではないことは分かりきっていた。

 魔人は胸に突っ込んだ腕を更に奥までねじ込む。

 そして肘まで押し込んだところで、一気に引き抜いた。


 引き抜いたその手には、一振りの刀が握られていた。


『これぞ魔族の秘宝の一つ“アブラス”。斬りつけたモノを灰と化す魔剣だ』


 魔人が、アブラスと呼んだ刀を振るう。

 その刃は近くに置いてあった車の残骸に当たったが、触れた直後に車が灰に変わった。


『さぁ、死にたまえ家畜ども』


 魔人が再び襲い掛かってきた。

 


 

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