第2話

1月24日

 今日、俺は街を出た。

 この街では他に生存者は見つからなかった。

 隅々まで探した訳では無いが、ショッピングモールを燃やした時に派手に燃えたのだが誰も現れなかったのだ。

 きっといないのだろう。


 他の街に行ったところで、誰かがいるとも限らない。

 それでも、希望は持ち続けたいと思った。



 1月28日

 出立して数日で大雪に足止めされた。

 雪解けを待つまで食料が持つかは分からないが、どこか探しに出かける必要があるかもしれない。

 とりあえずの数日間、誰かの家で過ごすことにした。

 暖房が使えないのが残念だ。



 2月2日

 ようやく出発することが出来た。

 俺の住む町は小さく、田舎といって間違いなく隣の町までもかなり遠い。

 車や自転車でもなければ時間がかかるが、レベルが上がる毎に俺の身体能力も上がっているのでかなり歩いても疲れはしない。

 なんだか、怪物に仲間入りした気分だ。


 2月4日

 ラジオを見つけた。

 電池式のやつで、電池は近くのコンビニで見つける事が出来た。

 ただ、ラジオの使い方がわからない。

 携帯が使えればな……。


 2月8日

 隣町についた。

 分かっていたが、ここも怪物に襲われたのだろう。

 町は崩壊していた。


 2月11日

 生存者を見つけた。

 

 生存者は七名。

 みんな傷だらけで、食料調達に出ている他に二人を除いて生き残りは見かけていないらしい。

 彼らは安全な場所を見つけ、そこで寄せ集まっているらしい。


 そしてもう一つ、分かったことがある。

 俺の身に起きたことだ。

 ステータスが見えたり、剣を召喚したりだとかが出来るようになった理由が分かった。

 どうやら彼らの中にも俺と似たようなやつがいるらしく、彼らはこれを覚醒と呼んでいた。

 

 原因はわからないが、ゲームじみた力を使えるようになるらしい。



 2月12日

 食糧調達に出ていたという二人が帰ってきた。

 ただ、怪物に襲われたらしく、一人は片腕が引き千切れる寸前だった。

 治ったとしても、繋がりはしないだろう。


 話を聞けば、二足歩行の狼の群れに襲われたらしい。

 どうやらこの町は、その狼に占拠されているようだ。

 他にも怪物がいるらしいが、人間がある程度減ったところで今度は怪物同士が争い、今は狼ぐらいしかいないらしい。

 縄張りのようなものがあるみたいだ。

 俺の町にはゴブリンとオーガいた事を伝えると、この町の狼を駆逐するのを手伝ってほしいといわれた。

 このままだと、食料も調達出来なくなるようだ。


 俺は返事を一日待ってほしいといった。


 2月13日

 俺は一人で町の中へ繰り出し、狼を探した。

 というのも、狼の強さを知りたかったからだ。

 オーガを殺した時もギリギリだったのだ。

 俺ともう一人が狼狩りに出て壊滅すれば、どのみち他の奴らも死ぬ。


 で、3体くらいの狼と遭遇し、戦ってみた。

 二足歩行の狼は体がでかく、ゴブリンの3倍ほどの大きさで、その力もかなり強い。

 毛皮も固く、半端な攻撃では俺の剣も通らなかった。

 特に数体の狼は意思の疎通が取れているらしく、ゴブリンは数体が纏まっても連携と呼べるものはなかったが、狼は俺の隙を狙ってくる。


 非常にやり辛い。

 だが、敵わない訳ではない。


 どうやら狼は3体で動くのが基本らしく、何度か戦闘を繰り返す。

 俺のレベルも上がってるからか、最初よりも断然戦いやすくなっていた。


 その日の夜、俺は狼を狩る事を了承した。



 2月15日

 早朝、俺ともう一人の覚醒者で狼狩りに出た。

 もう一人の覚醒者――上十(かみと)さんは俺よりも10は年上で、元は社会人だったらしい。

 この世界の状況や、何が起きたのか聞いてみたがやはり何もわからないらしい。

 覚醒と彼らが言っているこの力がなければ人間は怪物に対抗できないのだと理解した。


 なぜか、怪物には銃器の類が効果はないらしい。

 刃物や鈍器の類は効果があったらしいが、彼は門が開いた直後の大混乱の中で銃を撃つ警官だが自衛隊だがを見たが弾が弾かれたかのように効果がなかったようだ。

 理屈は不明だそうだ。

 

 狼の巣は幾つかの民家が密集した場所だった。

 近づくなり狼が襲ってくるようになり、俺と上十さんが協力して殲滅する。

 上十さんは俺とは違い、長い槍を使っていた。

 複数対には厳しいらしく、狼相手には相性が悪いらしいというが俺にはそうは見えなかった。

 俺たちは順調に数を減らしていった。


 二十体以上狼を殺したところで、ひと際大きな狼が現れた。

 どうやらそいつが狼のボスらしく、かなり手間取ったが何とか倒す事が出来た。

 ただ、俺も重症を負って上十さんも傷が深く、生き残りの狼に襲われないように身を隠す必要があった。



 2月27日

 何があったか分からない。

 生存者たちが暮らしていた場所へ向かうと、中にあったのは死体だけだった。

 死体は、顔を潰されているので大まかにしか誰か分からない。


 上十さんも、何が起きているのか分からないようだった。

 ただ、死体の数と生き残りの数が合わないことには俺たちは気づいた。

 これは怪物の襲撃ではない。


 人間の仕業だ。

 


 3月1日

 上十さんは生存者たちをあんな目に合わせた人物を探しに行くらしい。

 俺はついていこうかと言ったが、上十さんが断った。


 殺された生存者の中に、上十さんの恋人がいたらしい。

 あの時の上十さんの表情は、恐ろしかった。


 この世は地獄だと、改めて理解した。



 3月2日

 上十さんが町を出て行った。

 俺も町を出ることにした。


 次はどこに行こうか。





 ――――



「はぁあ!」


 召喚した剣を振り、二足歩行の狼――ウォーウルフの胴を斬りつける。

 以前よりも数段切れ味の増した剣はウォーウルフの腹を裂き、絶命に至らせる。


「ふぅ、中々数が多いね」


 裕樹の背中合わせに、上十純一郎が声を掛ける。

 上十もまた、ウォーウルフ数体を倒した所だった。


「えぇ、まぁ減ってはいるみたいですけど」


 背中合わせに周囲を見渡すが、少なくとも6体以上ウォーウルフが裕樹達を襲おうと身構えている。

 人間よりも数段大きな体格のウォーウルフは、人型でありながら獣の特徴を持ち合わせており、強靭な筋肉と鋭い爪、そして牙を持ち合わせている。

 嗅覚や聴覚にも優れており、隠れながら進む事は出来なかった。

 とはいえ、元より二人の目的はこの地にいるウォーウルフの殲滅。

 今更引くわけにもいかない。


「はっ!」


 上十の槍による鋭い突きに、ウォーウルフは喉を貫かれて数秒もがいた後に絶命。

 俊敏なウォーウルフの喉を貫くその槍の技量に、裕樹は目を見張る。


「もしかして武術とかしてました?」

「え? うん。うちはこの街で槍術を教えててね。といっても有名でもなんでもないけどね」


 裕樹が剣を振るい、上十が槍を突き、時に振るう。

 ウォーウルフが如何に人間にとっての脅威といえど、レベルが上がり身体能力が向上した二人にはそう手間取る相手でもなかった。

 

「そういう裕樹君は何かやってたのかい?」

「俺は何にもしてないですよ。高校でも帰宅部でしたし」

「だとすれば君には才能が有るんだろうね」


 思いもよらず褒められ、裕樹は少し照れ臭そうにする。

 その間も手を止める事はなく、油断もしていない二人は既にこの世の中に順応しているのだろう。


 周囲にいた全てのウォーウルフを全て倒した所で、休憩を取る事にする。


「裕樹君は、戦う事が怖くないのかい?」


 上十の質問に、裕樹は少し考える。


「もちろん、怖いです。でも、死にたくなければ戦わないといけない。今はそんな世の中になりましたから」

「そうだね。でもだからといって戦える裕樹君は、やっぱり才能があるんだろうね」


 自分はそうではないと言うような表情の上十に、裕樹は何も言えなくなる。

 気まずい雰囲気、だがそれは突然の轟音に打ち消される。


「なんだ?!」


 それは上から飛来した。

 コンクリートの地面を容易く抉って飛来したそれは、土煙を纏って姿を現す。

 それは姿こそウォーウルフに似ていた。

 だがまず体格が違う。

 通常のウォーウルフが二メートルあるかないかというところだが、そいつは3メートルは超えているだろう。

 毛並みもウォーウルフの青みを帯びた毛並みではなく黒く染めあがっており、爪や牙もけた違いの大きさだ。


「どうやらお出ましらしいね。こいつがあいつらのボスだよ」


 上十が槍を構える。

 裕樹も続き、剣を構えた。


『グォオオオオオ!!!!』


 ボスウォーウルフが雄叫びを上げる。

 空気がビリビリと震えるようなボスウォーウルフの声は、気の弱い奴ならば聞いただけで心臓を止められそうな圧があった。


「こいつを倒せば、この町は救われる。――やるぞ!」

「はい!」


 ボスウォーウルフと二人の戦いが、始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る