滅んだ世界で今日を生きる

あお

第1話


 4月1日


 今日から高校生だ。



 4月4日

 

 夕飯がおいしかった。



 4月5日

 他所の高校に行った友達と休日に遊んだ。

 楽しかった。



 4月12日


 特になし



 6月10日


 ニュースでやっていたが、UMAが見つかったらしい。

 連日ニュースになっていたが、実際に何が見つかったかは発表されていないらしい。

 この時代に未確認生物なんて、と思うが、いたらいたで夢のある話だなと思った。


 8月8日

 母さんが昨日、変な男に話しかけられたらしい。

 姉ちゃんが一緒の時に声を掛けられたらしいが夜だったので姉ちゃんが大声を叫んで追い払ったらしい。

 奇特な人間がいるもんだなと思った。


 8月12日

 最近、変なニュースが多い。

 どこかの国で強盗があったという話があれば、今度は怪物に襲われただとか。

 ネットも騒がしくなっており、変な生き物の写真を撮るやつも多い。

 大抵嘘つき扱いだが、テレビで取り上げると信憑性が増すのはなんなんだろうか。


 うちは今のところ平和だ。



 9月1日


 門がどうたらとネットが騒いでいる。

 空中に門が現れたらしい。

 集団幻覚とかなんとか。

 でも写真に写ったりしてるから違うだとか最近はそんなのばかりだ。






 



 12月24日

 母さんと父さんが死んだらしい。

 今も何が起きたのか、理解できていない。

 少し頭を冷やす必要がある。




 12月28日

 両親が死んだと聞いて4日が過ぎた。

 何が起きたのか、一度整理する必要がある。


 12月24日、世間ではクリスマスイブだと騒がしくなるその日、俺たちの住む町の上空に門が開いた。

 門、と呼ぶべきか分からないが、窓から見た限り俺にはあれがそう見えた。

 それからはあっという間だった。

 開かれた門からは数多の怪物が現れ、瞬く間に大混乱に陥った。

 両親に何があったかは外から帰ってきた姉ちゃんが説明してくれた。


 姉ちゃんは助けを呼ぶと言って、どこかへと行ってしまった。

 俺はこの四日間、外に出ていない。

 もう外からは叫び声は聞こえない。



 12月29日

 外の世界へ出てみた。

 慎重に家を出れば、そこはまるで別世界のようだった。

 破壊の痕と夥しい血、そして死体の山。

 嗅ぎなれない血の匂いと肌寒さに震えながら俺は外の探索を進めた。

 幸いにも怪物には会わなかった。


 その代わり、生存者にも会わなかった。

 姉ちゃんはどこにいったのだろうか。

 


 1月1日

 いつもならば元旦となれば家族で過ごしていたが、今はだれもいない。

 静寂、あるいはどこかで聞きなれない獣のような声が聞こえるだけだ。

 そして今日、電気が消えた。

 周りの家の電気も消えたので、停電だろう。

 家の中にあった蝋燭を搔き集めたが、そう多くはない。

 

 物資を集めるためにも、また外に出る必要がありそうだ。



 1月2日

 クソッ!

 怪物に襲われた。

 そいつは小柄な緑色の肌の、いわゆるゴブリンに似た姿をしていた。

 ゴブリンは俺を見つけるなり襲い掛かってきた。

 俺の体の半分ほどだというのに、俺よりも強い力で襲われ、何とか近くにあった棒で叩き殺したが、爪に引っかかれて左腕を負傷した。

 応急処置をして血も止まっているが熱があるのか、頭がボーとしている。



 1月4日

 昨日一日熱に魘されていたが、ようやく熱が引いて楽になった。

 今、俺の体におかしな異変が起きている。

 俺の目の前に、妙なものが見えているのだ。


 一言でいえば、ステータスだ。

 頭がおかしくなったのかもしれない。

 物資はつきかけているが、今日はまだ家で寝ることにしよう。



 1月5日

 目が覚めた。

 どうやら夢でも幻覚でもないらしい。

 俺の目の前に今、ステータスというべきものが見えている。


 名前:枢木祐樹

 Lv:2    

力:3  速さ:2  持久力:2  魔力:2 

 スキル:召喚『ソード』Lv1


 今俺の目に映っているものがこれ。

 やはり頭がおかしいのかもしれない。

 ただ、怪物が現れたのだ。

 何かしらおかしなことがあっても不思議ではないのかもしれない。

 試しに召喚と口に出してみるが、何も起きない。

 死にたくなった。



 1月8日

 召喚ではなく、サモンと言わないといけないらしい。

 サモンソード、と口に出す事で、俺の手元に剣が現れた

 これは夢でも幻覚でもない。


 ただ、現れた剣は錆びついており、役に立ちそうもない。

 試したが、時間経過では消えなかったが、試し切りをして折ると消えた。

 壊れるとだめらしい。


 Lv1とあるので、レベルが上がると変わるのかもしれない。


 1月15日

 

 両親の死体を見つけた。

 家からさほど離れていない商店街に、壁に体がめり込んでいるのを発見した。

 寒かったからだろう。遺体はそのままだった。

 気分は最悪だ。

 憂さ晴らしをするように、近くにいた怪物、ゴブリンを殺した。

 殺して、殺して、殺しつくした。

 切れ味が悪いが、呼び出した剣は役に立った。


 気分は晴れない。


 1月16日

 外を探索していると、ゴブリン以外の怪物を見つけた。

 やたらゴブリンばかりを見かけると思っていたが、他の怪物もしっかりいたらしい。

 遠目だが俺よりもかなり大きいみたいだ。

 今は手を出せそうにない。

 

 まだ、俺は他の生存者を見つけていない。

 電気が切れて以降、情報を手に入れる手段がないのだ。

 さらに探索範囲を広げるには、あの怪物との遭遇は免れそうにない。


 準備を整えることにしよう。


 1月17日


 やつらの巣を見つけた。

 どうやら、近所のショッピングモールの中に住み着いているみたいだ。

 入口は大きく破壊され、不自然に瓦礫や木が集められているのを見るに巣に間違いないだろう。

 中の確認は出来ていないが、昨日見た巨大な怪物、見た目からオーガと名付けたそいつも中に入るのを見た。


名前:枢木祐樹

 Lv:8   

力:11  速さ:6  持久力:10  魔力:5 

 スキル:召喚『ソード』Lv5


 ゴブリンを見つける度に狩っていたのでレベルは上がった。

 ソードのスキルもレベルが上がり、今呼び出すと依然よりもまともな斬れ味の剣が現れる。


 だがまだ無理だろう。

 ゴブリンは幾らでもいる。

 俺は狩りを続ける。


 1月21日

 地獄があるとすれば、あそここそがそうだ。

 そう思える程にショッピングモールの中は凄惨な状況だった。

 中は人間の死体の山だった。

 あいつらは人間を食う。

 寒さからか死体は腐らず、何度吐きそうになったか分からない。


 それよりも最悪なのが、ゴブリンどもの繁殖場を見つけた事だった。

 文字に起こすのも嫌になるほどの状況だ。

 何人か息があったが、ただ生かされて孕まされるだけの肉団子のような状態。

 その場の安全を確保して助けるなり、1人が俺の持つ剣に向かって自らを殺した。

 それを皮切りに、助けた全員が死を懇願した。



 


 この世界は地獄に変わったのだと俺はこの日、改めて理解した。



 ――――

 


 電気の供給が絶たれた暗いショッピングモールの中で枢木祐樹が見つけたものは、凄惨と言葉で表しても尚足りないものだった。

 元はモールの中にあった雑貨屋だったのだろうが、酷く荒らされ原型を保っていない状態になっている。

 さらにその奥、スタッフ専用の扉の奥にいたのは生きた人間であった。

 久方ぶりに見る人間に祐樹が表情を明るくするのも束の間、それを見た瞬間に表情を凍りつかせる。


 手荒く放置された人間の女性が5名。

 その全員が手足の何れかを欠損しており、表情は虚ろで祐樹が懐中電灯の明かりを当てても反応はなく、欠損した手足の付け根は無理やりに火を押し当てて処置したのだろう、黒く焦げ、化膿している人もいる。

 それでも生きているのは、何かしらの栄養は与えられているのだろう。


 一部の女たちはその腹が異様に膨らんでおり、何があったのかはすぐに理解出来た。


「クソッ……」


 思わず歯を食いしばる。

 ついこの間まで、ここは人が大勢出入りするショッピングモールだった。

 だが今はもう、ここは怪物が闊歩し、人間は食料か繁殖用の道具にしかならない。


 異臭に構わず、祐樹は彼女達に近づいた。

 その時にようやく、虚ろだった女達が反応を示す。


「――ろ、して……」


 辛うじて声を聞き取ることが出来た。

 祐樹の頭の中を無数の考えが巡る。

 だが、女の顔を見た瞬間、そうしてあげるべきだと理解した。


「――分かった」


 声の主の心臓を、祐樹は手に持つ剣で突き刺す。

 肋骨をすり抜けた一撃は素早く彼女の心臓を貫き、一瞬の苦悶の表情の後に息絶えた。

 ゴブリンは幾つも手に掛けたが、生きた人間を殺したの初めてだった。


 その後、祐樹は他の女達にも生きたいかどうかを確認した。

 全員、殺して欲しいと頷いた。




 ――――――


 1月22日


 今日、オーガを殺した。

 ゴブリンの数が多く手間だったが、最後はその首に剣を突き刺して殺す事に成功した。

 これでこの辺りにはゴブリンぐらいしかいないだろう。

 他に生存者は見つからなかった。

 俺はゴブリンを一体残らず始末した。

 子どものゴブリンもいたが、容赦はしなかった。


 あの犠牲者の山の中に、俺の知り合いがいたのかは分からない。

 もしかしたら姉ちゃんが、とも思ったが探すのはやめておいた。

 見つけてどうするんだとも思った。

 最後に、ショッピングモールに灯油をまいて全部燃やした。

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