第2話-③

その真雪まゆきの一言であれよあれよと事が進み無事に居酒屋で働ける事が決まった。

とんとん拍子にことが進みこうも簡単に物事が進むのかと少し戸惑う。

その居酒屋は駅前にある為、金曜日や土日は特に混みとても忙しかった。

だが前回での居酒屋でのバイトの経験が功をなしなんなく仕事をこなせていた。


「すみませ~ん!生3つ!」


「あいよー!」


今日は金曜日。今日も今日とて大繁盛だ。

仕事帰りのサラリーマンや大学生、家族連れが楽しそうに食事をし満席だった。

俺はその光景を見るのが好きだったのを思い出した。

皆楽しそうに笑っているその中で仕事をし、忙しく体を動かす。

それが楽しかったのだ。


「はぁ~」


俺は少しのため息を尽き、更衣室で私服に着替える。

バイトが始まって3回目の今日、いい具合に身体は疲労を感じていた。


梶野かじのくん!お疲れ!」


「ぁ、お疲れっす」


更衣室の扉から店長が顔出し話しかけてくる。


梶野かじのくん、来てから本当に助かってるよ。今日もありがとうね」


「いやいや、そんな」


「いや本当に!まだ高校生だから22時までしか働けないのが残念だよ。梶野かじのくん1人で2.3人の働きしてくれるからね」


「それは言い過ぎっすよ。店長」


「長く働いてね~!今日はお疲れ様!気をつけて帰りなよ」


「はい!お疲れ様でした」


店長は俺の言葉に手を振り厨房へと帰っていった。

ここの居酒屋の店長は本当にいつも態度が変わらず、店が忙しくても声を荒げたり機嫌が悪くなったりせず的確に指示を出したり周りを明るくする人だった。

その人柄もあって、俺にここを紹介してくれた真雪まゆきに感謝だ。

俺はロッカーの扉を閉め、店を出た。外はもう真っ暗で空には控えめに星が光っていた。

俺はなんだかその星をじーっと眺めていた。


梶野かじのくん?」


すると後ろから名前を呼ばれ振り返る。

そこには真雪まゆきの姿があった。


「…真雪まゆき?」


「うん、バイト帰り?」


真雪まゆきはトートバッグを肩にかけ、白いTシャツにジーパンというラフな格好。

初めてみる真雪まゆきの私服姿に釘付けになった。


「ぁ、うんそうそう。真雪まゆきも?」


「うん。バイトはどう?」


「いい感じ」


「本当?」


「本当だよ、店長もいい人だし客層も気のいいおっちゃんとかいて今んとこ楽しいよ。教えてくれてありがとな」


俺のその言葉を聞いて真雪まゆきは優しく笑った。


「それならよかった。俺紹介したはいいけど変な人いたらどうしようと思って」


「変な人ってなんだよ」


俺は笑いながら真雪まゆきと夜の道を歩いていく。


「変な人だよ 店長とかバイトの人で変な人だったらって…」


「お前なあ~ 俺男だぞ、それにそんな奴に俺は負けね~」


俺の言葉に真雪まゆきは不安そうな顔から安心したように笑い「そうだよね」と言った。


真雪まゆきは?」


「ん?」


「バイト先、変な奴いねー?大丈夫?」


「あぁ。バイトの先輩はいい人ばっかだけど…。たまにお客さんでね…」


「なに?変な奴いんの?」


「ん~、店には入ってこないんだけど。受付に立ってると店の前にずっと立っている人がいるんだよね」


「うぇ、なんだよ それ 女?男?」


「男の人」


「それ気持ち悪くね?大丈夫か、それ」


「まあ、たまたまだよきっと」


真雪まゆきのその話を聞いて、少し気持ち悪くも不気味さも覚えたが真雪まゆき自身はそこまで気にしている様子はなくそこまで問いただすものではないと思い俺はその話を深堀しなかった。

家までの道のり真雪まゆきと他愛もない話をして帰路に着いた。

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