第1話-⑯

俺は意を決して言葉を発する。


「…あの…さ、さっき朱雨しゅうって言ってたけど、それは達樹たつき朱雨しゅうの事か?」


「ええ、そうよ 朱雨しゅうも幼なじみなの」


「…そか、真雪まゆき朱雨しゅうって」


「知ってるの?」


真雪まゆき朱雨しゅうの関係を聞こうとした時食い気味に知ってるか聞かれ少し戸惑う。


「…あー、うん」


「そう、なの」


「やっぱりその、そういう感じ?」


「…うん ふたりは付き合ってたわ」


『付き合ってた』その言葉だけがクリアに聞こえた。やっぱり嘘ではなかったのだ。


真雪まゆきから聞いたの?」


「うん、」


「驚いた 人にそんな事言うなんて…」



たちばなはふたりが付き合っている事を知っていた。

『普通男同士なんて有り得ないものね』

さっきのたちばなの声が蘇る。

別にそういう事を言わせたかったわけではない。


「さっきの…」


「さっきの?」


「あの、男同士なんて有り得ないって」


俺がそういうとたちばなはあぁ…と顔が少し暗くなったのがわかった。


「別に俺はそんな事思ってないから。ただ真雪まゆきとはただの友達って事を言いたかっただけだから」


チラッとたちばなの顔を見るとさっきまでの無表情とは違ってふんわりと微笑んでいた。


「ありがとう。あなた見た目に反して優しいのね」


「…なんでそうなるんだよ」


俺は溜息をつく。ただ誤解を解きたかっただけだ。するとたちばなは座ったまま頭を下げた。


海晴かいせいさん、真雪まゆきの事よろしくお願いします」


「え…おいおい、何改まって…」


「あの子、いつも自分は大丈夫みたいな顔をしてるけど本当は違うの!」


顔を上げたたちばなの顔は必死で…。

大きな目から涙が出るんじゃないかと思うくらいうるうると潤んでいた。


「寂しがり屋だし…本当は誰かと一緒に楽しい事沢山したいって思ってるはずなの!」


たちばなの必死さに圧倒される。


「わかった、わかったから!」


「…だから…。もしあなたが真雪まゆきの友達を続けてくれるなら、普通の高校生活を教えてあげて…ほしいの…」


その時のたちばなの言葉が気になった。

普通の高校生活…それが引っかかった。

必死な顔のたちばなにあいつにはこんな必死になってくれる友達がいたのか…と少し嬉しくなった。


「わかったよ、真雪まゆきの事は任せろ。だから安心しろ」


そう言うとたちばなは安心したようにホッとして顔が緩むのが分かった。


「うん…本当にありがとう…」

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