第1話-⑮

ゆっくりと玄関の扉を閉める。

その時はもう外は暗く、ポケット入っている携帯で時間を確認した。時刻は19:30を回っており思ったより、ゆっくりしすぎたと少し早歩きで自分の家へと向かおうとアパートの廊下を歩く。


その時前から来た制服を着た女子生徒とすれ違う。すれ違ったという事はその女子生徒の行く先はひとつだ。だって、その先は真雪まゆきの部屋しかない。真雪まゆきは1番奥の角部屋に住んでいるのだから…。

俺が振り返ると、その女子生徒はまさにインターホンを押そうとしている所だった。


今、寝てるのに…


起こされては不味いと思い俺はその女子生徒の手首を掴み危機一髪でインターホンを鳴らすのを制した。


「………」


咄嗟に手を握ってしまったせいで、その子と目が合ってしまう。大きな目がびっくりしたように見開き俺を凝視する。


やっちまった…。

見知らぬ子の手首咄嗟に掴んじまった。

だってせっかくぐっすり寝てる真雪まゆきの事起こされたくなかったし…。


「…離して」


「あ、ごめん!ぁ、あの真雪まゆきに用?」


「………」


じとーっと何なんだこいつというような目で俺を見る彼女。


「今日 あいつ熱出して今やっとぐっすり寝たとこなんだ。だから…」


「ふーん…であなた」


「…ん?」


真雪まゆきの新しい彼氏?」


「は?」


















なんでこんな事になってんだ?

いつも柚希達と一緒に行くファミレス。

俺の目の前には茶色の長いストレートの髪を耳にかけ、オレンジジュースのストローに口をつけ飲む先程の女子生徒の姿。


「…飲まないの?」


俺の目の前にはコーヒー。

それを飲まないのか?と急かされる。


「ぁ、うん」


そう言われ俺もコーヒーに手をつける。

なぜここに居るのか、何の用があるのか俺には全く検討がつかない。

気まづさを感じているのは俺だけだろうか。


「ごめんなさい、さっき変な事言った」


唐突に謝られる。


「え?」


「私すぐ思った事口に出ちゃうの。よく真雪まゆき朱雨しゅうにも怒られてた」


朱雨しゅう朱雨しゅうとも面識があるんだな。


「ぁ、大丈夫」


俺はなんて言ったら言いか分からず、そんな言葉しか出なかった。


「あなた、真雪まゆきと同じ学校?」


「うん、同じクラス」


「…同じ」


その言葉を聞いて何かを考える彼女。


真雪まゆきはクラスではどんな感じ?あなた以外に友達はいる?」


「あー…、俺とは話すけど他の奴と話てるのは見たいことねー…かも…」


「…そう…」


明らかにしゅんとする彼女。

俺はその子が真雪まゆきとはどんな関係なのか気になり言葉を発した。


「ちなみに…君は…?」


「ぁ、ごめんなさい。自己紹介まだだったわね。私はたちばな澄麗すみれと言います。真雪まゆきとは幼なじみと言うのかしら…小学生からの付き合いなの」


「…幼なじみ」


「ええ、ごめんなさい 急にこんな所まで付き合って貰って…最近の真雪まゆきの様子が知りたくて」


「あぁーいいよ、全然。俺は梶野かじの海晴かいせい


海晴かいせいさん…よろしく」


「ぁ、おう」


この子と話しているとなんか調子が狂う。

制服を見るとブラウンのブレザーに赤のリボン。

これはここら辺じゃ誰もが知る有名私学の制服だ。しかも女子高。喋り方といい仕草といいお金持ちの子どもという気品がある。

まさか、俺があの学校に通う子と話をする事になるなんて…。人生が何が起こるか分からない。


「ところで、海晴かいせいさん」


「ん?」


真雪まゆきとはどういう関係?」


「ぶはっ」


思わずコーヒーを吹いてしまった。


「さっき、変な事言ったって謝ってただろーが」


「ごめんなさい、やっぱり気になって あなた否定しないから」


このたちばな澄麗すみれという女はさっきから表情が変わらない。からかっているのか本気なのか分からない。

俺は机の上のコーヒーを拭きながら、「ただの友達だよ」と告げる。


「…本当に?」


コテンと首を傾げるたちばな


「本当だよ、なんでそういう発想になるんだ」


「そうね、私が悪かったわ。普通男同士なんて有り得ないものね」


その言葉を聞いてズキっと胸が疼いた。


『俺は朱雨しゅうと付き合ってた』


その言葉を思い出す。もしかしてたちばな真雪まゆき朱雨しゅうの関係も知っているのだろうか…。

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