第1話-⑬

「帰れそうか?」


「…うん、帰る」


「ん」


俺は頷いて、ベッドから起き上がろうとする真雪まゆきの腕を支える。


「…ありがと」


「まだ熱高いか?」


真雪まゆきは俺の言葉に首を横に振った。


「…マシになったと思う」


「そうか、良かった」


するとガラッと扉を開く音がした。


「ごめんねー!会議長引いちゃって…。梶野かじのくん来た?」


先生が慌ただしく入ってくる。


「あ、はい!」


俺は咄嗟に返事をする。


「あ、梶野かじのくん。彼方おちかたくんは大丈夫?帰れそう?」


「…はい 寝たら少しマシになりました。」


「そう ゆっくり帰りなさいね。梶野かじのくん、彼方おちかたくんの事お願いね」


先生にそう言われ挨拶をしてふたりで保健室を後にした。









学校から出た俺は自分のかばんと真雪まゆきのかばんを肩にかけ、ふらふらと危なかっしく歩く真雪まゆきの姿に目が離せないでいた。

怠そうにふらふらゆっくり歩く真雪まゆき

かなりしんどそうだな…息も上がっていて、倒れそうな…。


「…真雪まゆき…」


俺は思わず声をかける。


「…ん?なに」


「…あのさ」


俺は男に言うべきか迷ったがふらふらしている真雪まゆきに言った。


「…おぶろうか?」


「…は?」


あ…間違えた。

真雪まゆきは何言ってんだこいつ?って言うような顔をしている。


「いや、歩くのすげえ、しんどそうだから」


「…ぁ…いや、それは大丈夫」


「…だよな、ごめん」


あー、なんかクソ恥ずかしい。

そりゃいくらしんどいからって、男におぶってもらうなんてないよな。


「…でも、ちょっと」


「ん?」


真雪まゆきは自身の腕を上げる。


「…腕…掴んでもいい?」


遠慮がちに言う真雪まゆき


「もちろん!」


俺は少し嬉しくなって、真雪まゆきの行き場を失っている手を掴み、自分の腕に絡めた。

恋人同士が腕を組むように真雪まゆきの指が俺の制服をぎゅっと掴む。


「…ありがと 楽になった」


少し笑った真雪まゆきにドクンっと心臓が跳ねた。

ん?今の何だ?俺は自分の胸に手を当てた。


「…どしたの?」


「…ぁ、いや…何でもない。家まだ距離ある?」


「…ぁー、うん あともうちょっと」


「そか、ゆっくりでいいから」


そう言うと真雪まゆきは頷き、ゆっくりと歩く。ぎゅっと握れた腕はじんわりと熱くなっていく。俺はきゅっとなる心に戸惑いながらも、その気持ちが何なのか、知りたくなる心を抑えた。

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