第1話-⑫

授業が終わり、急いで帰る準備をする。

適当に持ち物をかばんに詰め、真雪まゆきの荷物も適当にかばんに詰める。

とりあえず真雪まゆきの机の引き出しの中の物をカバンに入れた。まあ大丈夫だろう。忘れ物があったら、俺が代わりに取りに来たらいい。

そして二つのかばんを持って教室から早足で出る。


「おい!海晴かいせい!」


名前を呼ばれ振り向くと柚希ゆずき忠治ただはるの姿。

いつも一緒に帰っているので、迎えに来てくれたようだ。


「どした?どこ行くんだよ」


柚希ゆずきの言葉に顔の前で両手を合わせる。


「ごめん!真雪まゆきが熱だして!家まで送らねーとなんだわ!今日は先帰って!ごめん!」


俺はふたりにそれだけ告げ保健室へと向かった。

廊下には部活に行く者、家に帰る者、友達と遊び行く者、色んな生徒でごった返す人混みをかき分け慌ただしく向かう。




「…失礼しまーす」


まだ真雪まゆきが寝ているかも知れないので小さめの声で言う。

保健室に入ると先生は居らず、シーンと静まり返っていた。


「……っん、ふっ…」


するとカーテンの掛かっている一番端のベッドから苦しそうな声が聞こえる。


「…真雪まゆき?」


俺はそーっと端のベッドに近づき遠慮がちにカーテンに手をかけ、そっと引いた。

そこには寝ている真雪まゆきの姿があった。


「…はっ、」


だが、真雪まゆきは苦しそうな呼吸をしていて頬には涙の跡が目立っていた。

何かに魘されているような、苦しそうな呼吸。


真雪まゆき!」


俺は真雪まゆきの肩を揺すり、眠りから目覚めさせる。苦しそうな真雪まゆきの顔を見ていられなかった。


「…ん…」


「大丈夫か?真雪まゆき


薄らと目を開けた真雪まゆきの目にはまだ涙が溜まっていた。


「…梶野かじの、くん」


「魘されてたけど、大丈夫か?」


「…ぁ…うん」


起きたばかりの真雪まゆきはぼーっとしていていつも以上にふわふわとしている。

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