第1話-⑨

「38.5℃ 熱高いわねー」


保健室に真雪まゆきを連れて行くと、保健医の先生が熱を計ってくれた。


「高っ!お前大丈夫かよ」


思わず隣で声を上げてしまう。

触れた手が凄く熱く、思わず額で体温を確認してしまった。


「ベッド空いてるから次の授業は寝て、少し落ち着いたら帰りなさいね。保護者の方に連絡しないとね。迎えにきて貰えるのかしら?」


「…俺、親いないんで…」


「…彼方おちかたくん…あ、そうだったわね。ごめんなさい。ひとりで帰れる?」


先生は何か少し考えてそう言った。


「…帰れます」


「俺!家まで送るよ!」


「え?」


見るからにふらふらした真雪まゆきをひとりで帰らせるわけには行かない。

絶対途中で倒れるであろうという変な自信があった。


「あと、二限で授業終わるし。それまで寝てな。送るから」


「…いや、いいよ そんな…」


遠慮する真雪まゆき


「送ってもらいなさい。せっかく言ってくれてるんだから。じゃあ、授業が終わったら彼方おちかたくんの事頼んだわよ」


「はい!」


「……」


先生が後押ししてくれたおかげで、話はスムーズに決着が着いた。


-キーンコーンカーンコーン


その時授業の始まりを知らせるチャイムが鳴った。


「ほら、授業始まるからさっさと行きなさい」


「はーい!じゃあ、後でな真雪まゆき!」


そう言って保健室を後にした。



俺は早足で廊下を歩いた。

授業が始まり誰もいない廊下で自分の足音だけが響く。びりびりと電気が走ったように震える右手の平を眺めグッと拳を作った。

真雪まゆきを抱き抱えた右手はまだ感触が残っている。思った以上に細い腰、熱が高いせいで荒くなる息遣い、ほのかに香る真雪まゆきの匂い、全てが俺の中で残っていた。


暖かいようなくすぐったい様な、なんとも言えない感情がもやもやと心を侵食する。その感情の名前を俺はまだ知らない。

真雪まゆきに触れた右手を眺めながら、答えの出ない問いを巡らせてみるが…やっぱり何も分からない。


「…ぁ、やべ 授業遅れる」


俺は廊下を走って教室へと向かった。

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