第1話-⑦

「は?」


いつものファミレス。俺は自分の中でこの事実を抱えるには荷が重すぎて真雪まゆきの事を二人に話してしまった。


「え、その話本当?彼方おちかたがそう言ったの?」


柚希ゆずき忠春ただはるも瞳には動揺の影が映る。


「うん、朱雨しゅうを殺したって。はっきりそう言ったんだよ」


「はあああ?嘘に決まってんだろ」


「ユズ…」


「確かに、あいつが亡くなったっていう噂は確か…去年の夏に流れた」


「…去年の夏」


「でも、去年の夏は彼方おちかた普通に学校来てたよね?」


忠春ただはるは顎に手を当て考える。


「そうそう、普通だったんだよ。それはもう普通。何も変わらん それに本当に殺してたら、警察に捕まってんだろ」


柚希ゆずきのその言葉に確かにと安堵する。そして真雪まゆきの去年の姿が安易に想像が出来た。感情が表に出るタイプではない真雪まゆきはきっと何ら変わりない様子だったんだろう。


「でも本人がそう言ってたなら、そう思う何かがあったって事なのかな」


「つかあいつが亡くなったとか信じられねーわ。なっ、忠春ただはる


「うん、なんかそうだね…」


二人の話からすると相当信じられない事なんだそうだ。俺は達城たつき朱雨しゅうという人物は全く知らないし、ましてや真雪まゆきの事もまだまだ何も知らない。

そしてもうひとつ…


「…あと、」


「あと?」


「…朱雨しゅうと付き合ってたって…」


「はあああ!?げほっごほっ」


「ちょ、ユズ大丈夫?ほら、コーラ飲んで」


俺の言葉を聞いて柚希ゆずきはポテトで喉を詰まらせた。


「あ〜もう、大丈夫かよ…」


俺は呆れたように柚希ゆずきに声をかける。


「そ、それも本人から聞いたのかよ」


「うん、確かに言ってた」


「はぁぁぁあ、まじか…まじか…」


「まあ、そう言われても不思議じゃないよね。あの二人は…。」


「そんな感じ?」


そして忠春ただはるは困ったように笑った。


「確かにあの二人はずっと一緒だったよ。なんかふたりだけの世界?って感じで…ちょっと異質だったよ」


「ふーん」


「あー!なんか妙に納得だわ!でも…」


「でも?」


「俺から見たらお互いがいないと生きてけない程依存してたように見えてたから亡くなって彼方おちかたの傍から離れるのも達城たつきから離れて生きてる彼方おちかたもそういう行動出来たんだって驚きだわ…」



傍から見てもそう思う程ふたりの仲は誰も入り込めない異質なものだったのだろう。

なのに…俺は思う。あの時の真雪まゆきの表情は少しホッとしたような安心したようなそんな顔をして、俺に言った。殺したと…。

恋人が亡くなってするような顔じゃなかったのは確かだ。


















真雪まゆき、おはよ」


次の日、俺は普通に真雪まゆきに挨拶をした。ただ普通に…いつも通りに。


「……おはよ」


真雪まゆきは少し驚いたような顔をして目をパチクリ瞬きをする。まるで話かけられないだろうと思っていた人に話しかけられたみたいな。

俺は構わず隣の席に腰をかけ、カバンの中の教科書を机の引き出しに入れる。

隣から視線を感じつつ、チラッと真雪まゆきの方へと視線を移す。バチっと目が合った。


「…なに?」


「…いや、もう話しかけてこないかと思って」


「は?なんでそうなるんだよ!」


「…いやだって、俺…」


「ん?」


「同性愛者だし、彼氏殺してるし…」


「…おまっここで…」


「…怖くないの?」


真雪まゆきの瞳は真っ直ぐだった。

今までに見たことがないような真っ直ぐした瞳だった。

だから俺もはっきり言った。


「その殺したって表現はよくわかんねーけど、お前の事怖くねーよ」


俺がそう言うと真雪まゆきは遠慮気味に少し笑った。その顔を見て俺は何だか少し安心した。何に安心したのかは分からない。けど何処か安心したんだ。


「てか殺人は怖えーけど、お前そんな事するやつじゃねーだろ?だとすれば同性愛者?それの何が怖いの?え?」


「…いや、いいよ、もう。」


「え?なになに?どういうこと?」


出会って数ヶ月 真雪まゆきが初めて自然に笑った。

その笑顔を見て少し…少しだけドキッとした自分がいた。

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