第1話-⑥

「…梶野かじのくん」


その背中に声をかけるが何の反応もない。


梶野かじのくん!」


「うわっ!びっくりした!」


少し大きめの声で彼の名前を呼んだ。

彼はビクッと肩を震わせた。


「お前そんな声でるんだ…そこにびっくりだわ」


「…いや。そうじゃなくて、急に手引っ張ってどうしたの」


「…あー…、いや…」


バツの悪そうな梶野かじのくんの様子。

完全に動揺してる。

さっきの女子生徒の会話聞こえてたんだろうな。

俺に聞こえまいと場所を移したんだろうなと分かった。俺は梶野かじのくんに握れた手首を捻って外し彼より先に階段を降りた。


「さっきの話、半分本当で半分嘘」


「……半分」


「俺と朱雨しゅうが付き合ってたが本当」


「………」


梶野かじのくんの顔は驚いた顔をしていて…。


「で、自殺は嘘だよ」


「……あ、嘘…そう、なんだ」


「俺が朱雨しゅうを殺した。だから嘘。自殺じゃない」


それだけ告げて、俺は階段を降りていった。

あえて梶野かじのくんの顔は見なかった。

ただ淡々と階段を一歩一歩降りていく。

背中に感じる視線を無視して、ただ淡々と…。



















昼下がりの教室、強い日差しが窓から差し込む。

黒板の前で授業をする教師の声は頭に全く入らない。俺はさっきの真雪まゆきの言葉が頭から離れなかった。



『俺が朱雨しゅうを殺した』



殺した?殺したって本当に…?そんなはずないだろ…。それこそ嘘だ。


「……殺した…」


俺はバッと隣を見る。真雪まゆきはノートにしっかり板書していた。

やべー、声に出てた…。聞こえたかと思った…。

そしてもうひとつ。


『俺と朱雨しゅうは付き合ってた』


付き合ってたって…。

ってことは真雪まゆきは同性愛者って事か…?まあ、今の世の中そんな事は珍しいものでも無い。でも…俺今まで出会った事ないぞ。

真雪まゆきはその恋人を殺したって確かに言った。もうまじで意味わかんねー。恋人殺すか?つか殺したって表現どうなんだよ。


その事を考えるばかりで気づいたら午後の授業は終わりを告げていた。

帰る支度を終えて、最後に何か真雪まゆきに声をかけようと


「…真雪まゆき


名前を呼んだが真雪まゆきはさっさとカバンを持って教室から出て行ってしまった。

その背中をみて、思った。

俺は何て言葉をかけようとしていたのだろうかと…。


「おーい、海晴かいせい 帰るぞ」


自分の名前を呼ぶ声がして、教室の扉へと視線を向けるとそこには柚希ゆずき忠春ただはるがいた。その二人の顔を見て何だかホッとした。


柚希ゆずき〜!忠春ただはる〜!」

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