第1話-⑤

「いない?どういうこと…?」


その事実が理解出来ない俺は疑問をぶつけた。


「……親がいないの 俺施設育ちだから」


「…ぇ」


その言葉に俺は軽々しく聞いてしまった自分に後悔した。まさかそんな言葉が帰ってくると思っていなかった。


「…今は施設出て、ひとり暮らししてる」


同じ17歳の真雪まゆきはどこか大人びていて落ち着いていた。その纏うオーラはどこから来るんだろうと思っていたが、施設育ちにひとり暮らししているとは思っていなかった。

俺なんて家事のひとつもしたことが無い。

今家を出されたら、とてもじゃないがひとりでは生きて行けない。


「…まじ?」


「…まじ」


真雪まゆきは俺の戸惑いもお構いなくパンをほうばっている。

その様子が小動物が草を一生懸命に食べるようなそんな感じだった。


「すげえーな、お前。金は?金はどうしてんの?」


「…バイトしてる」


「バイト!?お前バイト出来んの!?」


バイトをしている事に驚いた。

教室では誰とも話さないこいつがバイトをしている所が全く想像がつかない。


「…失礼な。バイトくらい出来るよ」


「ぇー…なに?なんのバイトしてんの?」


「…カラオケ」


「…カラオケ…」


これまた予想外な。

バイトをしている事自体想像がつかないのにカラオケでバイトしているのは余計に想像がつかない。真雪まゆきは苦労しているんだなと思った。それに比べ俺は毎日適当に過ごしているんだなと実感する。


パッと見あげる空は澄んでいて太陽が散々と光る。こんな穏やかな日に俺は真雪まゆきの苦労を知った。




















梶野かじのくんに貰ったパンを食べながら空を見あげる梶野かじのくんの横顔を眺めた。

高校生でひとり暮らしと聞いて彼はどう思ったのだろうかと少し気になったが、彼も興味が薄れればそのうち俺から離れるだろう。

気持ち良さそうに太陽を浴びる彼の横顔がふと朱雨しゅうと重なった。

俺は咄嗟に梶野かじのくんから視線を外す。心臓はドクンと脈を打ち、さっきまで大人しかった音は少しずつ大きくなる。

もう一年も経った。もういい加減、忘れたいのにふとした時に朱雨しゅうを探している自分がいる。



「ねえ!聞いた?」


すると甲高い声が屋上に響いた。

俺たちの向かい側で女子生徒数人が話して居るのが見える。広い屋上だから、各々数人のグループがそれぞれ昼食を取っている。


「何が?」


「あの、達城たつき!覚えてる?」


達城たつき達城たつきって、彼方おちかたと付き合ってるって噂あったあの?」


「そう!その達城たつき達城たつき朱雨しゅう!亡くなったらしいよ!」


「亡くなった?なんで?」


「知らなーい 自殺とかって噂」


「はあ?自殺ってあいつが?」


「ねっ!驚きだよね!1番自殺しなさそうなのに!むしろ殺す側だよね」


女子生徒の声が頭に響く。

自殺…。その言葉が耳から離れない。

チラッと梶野かじのくんを見ると女子生徒の方を見ているのが分かった。

俺の名前も出ていたし、きっと聞こえてるよな…。俺はサッと立ち上がろうした時グイッと腕を引っ張られ屋上から校舎に続く階段へと引っ張られる。

ズンズンと俺の手首を握り目の前を歩く梶野かじのくんは何も言わない。

いつもうるさい程話しかけてくる彼のその背中が少し怖かった。

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