『…お母さん、寂しいよ…』


『大丈夫?』


遠い記憶。幼い私。


帰りの遅い母を私はいつも外で待っていた。

寂しくて寂しくて、いつも団地の階段に座って母を待つ。

泣きながら、『寂しい』と言いながら。

そんな時いつも、お隣の高校生のお兄さんが声をかけてくれて、家に招いて私の好きなホットミルクを出してくれていた。

私が引越しをするまで、寂しい時はいつも彼がいた。


「…お兄さん?」


「やっと思い出した」


「…嘘」


「全然思い出さないんだもんな〜まあでも無理もないけど…君まだ幼かったし」


「よく私だってわかりましたね…」


「…なんとなくね、名前で分かったって感じ 俺も確信はなかったけどね」


松村さんはふにゃっと笑ってなんだか嬉しそうだった。


「ぁ、冷めないうちに飲んで」


「…ありがとうございます」


ホットミルクに口をつける。

懐かしい味。

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