「あいつほんとうざいわ〜」

「早く消えてくんないかな」

「わかる〜死ねよ〜早く〜」


教室の扉を開けようと手をかける。

朝から憂鬱になる声。

頭の中で響く言葉。


私は教室に入れなくて小走りで屋上へと向かった。

階段を上がり、扉を開けるといつも通りに柵にもたれ掛かるように座り、本を読んでいる柊くんの姿。


「……」


私は少し距離を置くように柊くんの延長線上に腰を下ろし空を見上げ、涙を堪える。


「…また何か言われた?」


「…うん、いつも通り」


「そっか」


柊くんはそれ以上何も聞かずただ傍に私がいる事を許してくれる。

気を使わない それが1番居心地が良かったから。

だからまだこの時はこの先起こることなんて想像も付かなかった。

あなたの秘密も あなたのことも1ミリも知らなかった。


本を読むあなたの横顔が脳裏にこびりついて離れない。

何を思って生きていたの?

何を感じて生きていたの?

今さら考えてももう遅いのに、10代の私たちには少し重すぎたのかもしれない。

現実を受け止める事も現実から逃げることも知らないただの子どもだったから。

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